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起风了 - 堀辰雄 - 中文、日文(原著)对照 [I-文学]

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发表于 2023-8-6 21:25:11 | 显示全部楼层 |阅读模式 | 这位主人来自 中国

风立ちぬ、いざ生きめやも。
Le vent se lève, il faut tenter de vivre.
风乍起,合当奋意向人生。



序曲


それらの夏の日々、一面に薄の生い茂った草原の中で、お前が立ったまま热心に絵を描いていると、私はいつもその傍らの一本の白桦の木荫に身を横たえていたものだった。そうして夕方になって、お前が仕事をすませて私のそばに来ると、それからしばらく私达は肩に手をかけ合ったまま、遥か彼方の、縁だけ茜色を帯びた入道云のむくむくした块りに覆われている地平线の方を眺めやっていたものだった。ようやく暮れようとしかけているその地平线から、反対に何物かが生れて来つつあるかのように……

在那些夏日里,在弥望著茂密芒草的草原中,当你站在那里专心致志地作画的时候,我总是躺在旁边一株白桦的树荫下。而到了傍晚,你结束了工作,来到我身边。然后,我们就互相搂著肩膀,一动不动地眺望著远方那被密密匝匝、只有边缘带著暗红色的积雨云团覆盖著的地平线。似乎从那终於走向黄昏的地平线上,反而有什麼正悄然诞生......

そんな日の或る午后、(それはもう秋近い日だった)私达はお前の描きかけの絵を画架に立てかけたまま、その白桦の木荫に寝そべって果物を啮じっていた。砂のような云が空をさらさらと流れていた。そのとき不意に、何処からともなく风が立った。私达の头の上では、木の叶の间からちらっと覗いている蓝色が伸びたり缩んだりした。それと殆んど同时に、草むらの中に何かがばったりと倒れる物音を私达は耳にした。それは私达がそこに置きっぱなしにしてあった絵が、画架と共に、倒れた音らしかった。すぐ立ち上って行こうとするお前を、私は、いまの一瞬の何物をも失うまいとするかのように无理に引き留めて、私のそばから离さないでいた。お前は私のするがままにさせていた。

就在那些日子里的一个下午(那时已经接近秋天),我们把你尚未画完的画立在画架上,侧卧在那株白桦的树荫下吃著水果。如沙的碎云从天空轻轻飘过,这时,起风了,出人意料,不知所从。在我们头上,树叶间偶尔可见的蓝色时展时缩。几乎与之同时,我们听到了草丛中有什麼东西“啪”地倒下的声音。那声音,像极了我们放在那里的画随著画架一起倒下的声音。你想马上转身过去,但我硬是拉住你,就像不想失去眼前转瞬即逝的什麼东西似的,不让你从我身边离开,你顺从了我。


风立ちぬ、いざ生きめやも。 “纵有疾风起,人生不言弃。”


ふと口を冲いて出て来たそんな诗句を、私は私に靠れているお前の肩に手をかけながら、口の里で缲り返していた。それからやっとお前は私を振りほどいて立ち上って行った。まだよく乾いてはいなかったカンバスは、その间に、一めんに草の叶をこびつかせてしまっていた。それを再び画架に立て直し、パレット?ナイフでそんな草の叶を除りにくそうにしながら、「まあ! こんなところを、もしお父様にでも见つかったら……」お前は私の方をふり向いて、なんだか暧昧な微笑をした。

我把手搭在你紧靠我的肩上,嘴里重复著这脱口而出的诗句。而后,你终於挣开我,站起来,走了。还没有完全凝固的油彩,在这会儿已经沾满了草叶。你把它重新立在画架上,一边用版刀费力地除去草叶,一边蓦然回头对我莫名其妙地微微笑著,说道:

「もう二三日したらお父様がいらっしゃるわ」 或る朝のこと、私达が森の中をさまよっているとき、突然お前がそう言い出した。私はなんだか不満そうに黙っていた。するとお前は、そういう私の方を见ながら、すこし嗄れたような声で再び口をきいた。
“啊!要是让你父亲看到咱俩在一起,他会怎样呢?”
“再过两天,父亲就该回来了!”
一天早晨,我们正在森林里漫无目的地散步,你突然说出这句话。
我沉默著,似乎有点不高兴。

「そうしたらもう、こんな散歩も出来なくなるわね」「どんな散歩だって、しようと思えば出来るさ」 私はまだ不満らしく、お前のいくぶん気づかわしそうな视线を自分の上に感じながら、しかしそれよりももっと、私达の头上の梢が何んとはなしにざわめいているのに気を夺られているような様子をしていた。
於是,你一边看著我,一边用略带嘶哑的声音开口说道:

“那样的话,就不能再这样散步了。”
“散散步还不至於被限制吧?”

我还是有点生气,虽然在我身上感到了你带著几分关心的视线,但是相比之下,我似乎更在意头上树梢发出的娑娑声响。

「お父様がなかなか私を离して下さらないわ」
“父亲非常不愿意看到我们在一起。否则,他就让我离开他。”
私はとうとう焦れったいとでも云うような目つきで、お前の方を见返した。
我终於用近乎焦躁的眼神回头看著你。

「じゃあ、仆达はもうこれでお别れだと云うのかい?」「だって仕方がないじゃないの」“那麼说,我们要就此分手了吗?”
“可是……没有办法啊。”

そう言ってお前はいかにも谛め切ったように、私につとめて微笑んで见せようとした。ああ、そのときのお前の颜色の、そしてその唇の色までも、何んと苍ざめていたことったら!

这样说著,你努力地微笑著,试图证明你真的主意已定。啊!那时你面庞的颜色、甚至你嘴唇的颜色,都是那麼的苍白!

「どうしてこんなに変っちゃったんだろうなあ。あんなに私に何もかも任せ切っていたように见えたのに……」 “怎麼会变成这样呢,看上去已经把一切都托付给我,可……”

と私は考えあぐねたような恰好で、だんだん裸根のごろごろし出して来た狭い山径を、お前をすこし先きにやりながら、いかにも歩きにくそうに歩いて行った。そこいらはもうだいぶ木立が深いと见え、空気はひえびえとしていた。ところどころに小さな沢が食いこんだりしていた。突然、私の头の中にこんな考えが闪いた。お前はこの夏、偶然出逢った私のような者にもあんなに従顺だったように、いや、もっともっと、お前の父や、それからまたそういう父をも数に入れたお前のすべてを绝えず支配しているものに、素直に身を任せ切っているのではないだろうか?……

在裸根横七竖八越来越多的狭窄山路上,我让你走在前面不远的地方,以苦苦思索的姿态,极其艰难地走著。那一带看上去树丛很深,空气冷飕飕的,到处都有沼泽侵淩。突然,我头脑里闪出这样一个念头,你在今年夏天才偶然遇到我,你对我这样的人都那麼顺从,那麼对你父亲以及包括父亲在内、不断支配著你的所有人,该不会都像这样,不,该是更多、更多地,老老实实地把自己完全交付出去的吧?

「节子! そういうお前であるのなら、私はお前がもっともっと好きになるだろう。私がもっとしっかりと生活の见透しがつくようになったら、どうしたってお前を贳いに行くから、それまではお父さんの许に今のままのお前でいるがいい……」

“节子!如果你就是这样的姑娘,我会更加更加喜欢你的。等我对生活有了更可靠的把握,无论如何都会娶你的。所以,你只管一直在父亲身边,就像现在这样……”

そんなことを私は自分自身にだけ言い闻かせながら、しかしお前の同意を求めでもするかのように、いきなりお前の手をとった。お前はその手を私にとられるがままにさせていた。それから私达はそうして手を组んだまま、一つの沢の前に立ち止まりながら、押し黙って、私达の足许に深く食いこんでいる小さな沢のずっと底の、下生の羊歯などの上まで、日の光が数知れず枝をさしかわしている低い灌木の隙间をようやくのことで潜り抜けながら、斑らに落ちていて、そんな木泄れ日がそこまで届くうちに殆んどあるかないか位になっている微风にちらちらと揺れ动いているのを、何か切ないような気持で见つめていた。

我一边对自己暗自说著这些话,却一边想徵求你的同意似的突然抓起你的手。你任由我那样抓住你的手,然后,我们就这样手牵著手,在一片沼泽前止步伫立,一言不发,用一种说不出的心情注视著。阳光费力地穿过无数枝条交错的低矮灌木的缝隙,稀稀落落地洒在我们脚下深浸著的小沼泽最底部,洒在树根下生长著的羊齿草之类的杂草上面。那团穿过树隙投到那里的光影,被似有似无的微风娑娑地摇动著。

それから二三日した或る夕方、私は食堂で、お前がお前を迎えに来た父と食事を共にしているのを见出した。お前は私の方にぎごちなさそうに背中を向けていた。父の侧にいることがお前に殆んど无意识的に取らせているにちがいない様子や动作は、私にはお前をついぞ见かけたこともないような若い娘のように感じさせた。

此后两三天的一个傍晚,我在餐厅里看到你和来接你的父亲一起就餐。你无情地用后背对著我。一定是因为你在父亲身边,使你几乎无意识地做出这样的姿态和动作,让我感到了从未见过的、像小女孩儿一样的你。

その晩、私は一人でつまらなそうに出かけて行った散歩からかえって来てからも、しばらくホテルの人けのない庭の中をぶらぶらしていた。山百合が匂っていた。私はホテルの窓がまだ二つ三つあかりを泄らしているのをぼんやりと见つめていた。そのうちすこし雾がかかって来たようだった。それを恐れでもするかのように、窓のあかりは一つびとつ消えて行った。そしてとうとうホテル中がすっかり真っ暗になったかと思うと、軽いきしりがして、ゆるやかに一つの窓が开いた。そして蔷薇色の寝衣らしいものを着た、一人の若い娘が、窓の縁にじっと凭りかかり出した。それはお前だった。……

那天晚上,我一个人百无聊赖地出去散步,回来后又信步徘徊在无人的旅馆院子里。野百合散发著香气,我漠然地凝望著旅馆还发出灯光的两三个窗口。不知不觉间,好像起雾了。视窗的灯光似乎对雾有著恐惧,一个接一个地熄灭了。而在我以为整个旅馆将一片漆黑的时候,轻轻的一声窗框响,一扇窗户缓缓地打开了。一位身穿著蔷薇色睡衣的年轻姑娘,紧紧地抓著窗框探出身来,那就是你……

私は终日、ホテルに闭じ笼っていた。そうして长い间お前のために打弃って置いた自分の仕事に取りかかり出した。私は自分にも思いがけない位、静かにその仕事に没头することが出来た。そのうちにすべてが他の季节に移って行った。そしていよいよ私も出発しようとする前日、私はひさしぶりでホテルから散歩に出かけて行った。

我终日闷在旅馆里,开始处理自己长期以来为你而中断的工作。我自己都想不到,我竟能平静地埋头於工作。不知不觉间,一切转入另一个季节。於是,终於要出发的前一天,我走出旅馆去做久违的散步。

秋は林の中を见ちがえるばかりに乱雑にしていた。叶のだいぶ少くなった木々は、その间から、人けの绝えた别荘のテラスをずっと前方にのり出させていた。菌类の湿っぽい匂いが落叶の匂いに入りまじっていた。そういう思いがけない位の季节の推移が、――お前と别れてから私の知らぬ间にこんなにも立ってしまった时间というものが、私には异様に感じられた。私の心の里の何処かしらに、お前から引き离されているのはただ一时的だと云った确信のようなものがあって、そのためこうした时间の推移までが、私には今までとは全然异った意味を持つようになり出したのであろうか? ……そんなようなことを、私はすぐあとではっきりと确かめるまで、何やらぼんやりと感じ出していた。

秋天使森林的一切杂乱不堪,几乎让人感到陌生。叶子稀疏的树木,让远方不见人影的别墅阳台从树木丛中探将出来。菌类湿乎乎的味道和落叶的气味混杂在一起。这种意想不到的季节变换——和你分手后不知不觉之间如此逝去的时间,令我感到诧异。在我心中的某个地方,有一种坚定的信念,那就是离开你只是一时的。所以,是否因此而使得这样的时间推移,也变得具备了对我而言与以往迥异的意义呢?……这些事情,直到我事后清楚地确认之前,一直令我感到一种莫名的恍惚。

私はそれから十数分后、一つの林の尽きたところ、そこから急に打ちひらけて、远い地平线までも一帯に眺められる、一面に薄の生い茂った草原の中に、足を踏み入れていた。そして私はその傍らの、既に叶の黄いろくなりかけた一本の白桦の木荫に身を横たえた。其処は、その夏の日々、お前が絵を描いているのを眺めながら、私がいつも今のように身を横たえていたところだった。あの时には殆んどいつも入道云に遮られていた地平线のあたりには、今は、何処か知らない、远くの山脉までが、真っ白な穂先をなびかせた薄の上を分けながら、その轮郭を一つ一つくっきりと见せていた。

十几分钟后,我走出一片树林的尽头。从那里便突然开阔起来,远远的地平线遥望如带。草原上生长著一片茂密、弥望的芒草,我步入其中,在旁边一株白桦树荫下躺著。白桦的叶子已经开始变黄,那就是在那个夏天的每一天,我一边凝视著你作画,一边像现在这样躺在这个地方。当时几乎总是被积雨云遮盖的地平线,现在则是不知何去的远山,在随风摇摆著雪白穗稍的芒草之上,一座座清晰地展示著它们的轮廓。

私はそれらの远い山脉の姿をみんな暗记してしまう位、じっと目に力を入れて见入っているうちに、いままで自分の里に潜んでいた、自然が自分のために极めて置いてくれたものを今こそ渐っと见出したと云う确信を、だんだんはっきりと自分の意识に上らせはじめていた。……

我著力凝目注视那些远山的身姿,以至於将它们尽数默记。无形之中,一种感觉渐渐地浮现在自己的意识之上。我确信,一直在自己心中隐藏著的、大自然造化给自己的判定,今天终於找到了……




三月になった。
三月已至。

或る午后、私がいつものようにぶらっと散歩のついでにちょっと立寄ったとでも云った风に节子の家を访れると、门をはいったすぐ横の植込みの中に、労働者のかぶるような大きな麦秆帽をかぶった父が、片手に铗をもちながら、そこいらの木の手入れをしていた。私はそういう姿を认めると、まるで子供のように木の枝を掻き分けながら、その傍に近づいていって、二言三言挨拶の言叶を交わしたのち、そのまま父のすることを物珍らしそうに见ていた。――そうやって植込みの中にすっぽりと身を入れていると、あちらこちらの小さな枝の上にときどき何かしら白いものが光ったりした。それはみんな莟らしかった。……
一天下午,我一如既往的悠闲的散步,顺便拜访一下节子家。结果,在刚一进门旁边的树丛里,节子的父亲戴著匠人的大草帽,一只手拿著剪刀,在整理一片树木。我认出了他,就像小孩子一样分开树枝,一边走近他的身旁。互道了几句客套话以后,我就一动不动地、好奇的看著他工作。就这样,完全潜身於树丛中,就会发现到处的小枝头上总有些白色的东西不时地闪耀,那是含苞待放的花蕾。

「あれもこの顷はだいぶ元気になって来たようだが」父は突然そんな私の方へ颜をもち上げてその顷私と婚约したばかりの节子のことを言い出した。
“这阵子,它们也变得神气多了。”节子的父亲突然向我这边抬起头,说起这几天刚刚和我订了婚约的节子的事来。

「もう少し好い阳気になったら、転地でもさせてみたらどうだろうね?」
“要是天气再变得舒适一些,就让她换个环境试试,怎麼样?”

「それはいいでしょうけれど……」と私は口ごもりながら、さっきから目の前にきらきら光っている一つの莟がなんだか気になってならないと云った风をしていた。
“那应该会是不错的……”我吞吞吐吐地说著,装作从刚才开始一直被眼前一粒闪闪发光的花苞所吸引不能自已的样子。

「何処ぞいいところはないかとこの间うちから物色しとるのだがね――」と父はそんな私には构わずに言いつづけた。「节子はFのサナトリウムなんぞどうか知らんと言うのじゃが、あなたはあそこの院长さんを知っておいでだそうだね?」
“有没有什麼好地方呢?这几天我正在物色一下——”节子父亲并不介意我的样子,继续说著。“节子说,不知道F的疗养院怎麼样。可是听说,你好像认识那里的院长啊。”

「ええ」と私はすこし上の空でのように返事をしながら、やっとさっき见つけた白い莟を手もとにたぐりよせた。
“诶……”我一边有点儿心不在焉似的回答著,一边把刚才发现的那朵白色花蕾拉到了眼前。

「だが、あそこなんぞは、あれ一人で行って居られるだろうか?」
“可是,那种地方,一个人去能行吗?”

「みんな一人で行っているようですよ」
“好像都是一个人去的呀。”

「だが、あれにはなかなか行って居られまいね?」
“但是,节子是不能自己一个去的吧?”

父はなんだか困ったような颜つきをしたまま、しかし私の方を见ずに、自分の目の前にある木の枝の一つへいきなり铗を入れた。それを见ると、私はとうとう我慢がしきれなくなって、それを私が言い出すのを父が待っているとしか思われない言叶を、ついと口に出した。
节子的父亲保持著那种莫名的为难表情,但看也不看我这边,猛然向自己眼前那棵树的一个枝条剪去。看到这里,我终於忍不住了。我说出了唯一能想到的、节子父亲等著我说出的那句话。

「なんでしたら仆も一绪に行ってもいいんです。いま、しかけている仕事の方も、丁度それまでには片がつきそうですから……」
“那麼,我们一起去也不妨。现在手头儿做的工作,到那时也正好可以结束了……”

私はそう言いながら、やっと手の中に入れたばかりの莟のついた枝を再びそっと手离した。それと同时に父の颜が急に明るくなったのを私は认めた。

我一边这样说著,一边把好不容易刚刚抓到的那条带著花蕾的树枝再次轻轻放开。同时,我发现节子的父亲的脸色豁然开朗了起来。

「そうしていただけたら、一番いいのだが、――しかしあなたにはえろう済まんな……」“那样关照的话,是最好不过了。只是……太对不住你了……”

それから私达はそのサナトリウムのある山岳地方のことなど话し合っていた。が、いつのまにか私达の会话は、父のいま手入れをしている植木の上に落ちていった。二人のいまお互に感じ合っている一种の同情のようなものが、そんなとりとめのない话をまで活気づけるように见えた。……
此后,我们谈论了那家疗养院所在的山岳地区的情况等等。而不知从什麼时候开始,我们的话题落在了节子父亲正在整理的盆栽上了。两个人现在相互感受到一种共同的情感,使得无边无际的话题都变得生动有趣起来……

「节子さんはお起きになっているのかしら?」しばらくしてから私は何気なさそうに讯いてみた。
“节子起床了没?”过了一会儿,我若无其事地试探问道。

「さあ、起きとるでしょう。……どうぞ、构わんから、其処からあちらへ……」と父は铗をもった手で、庭木戸の方を示した。私はやっと植込みの中を潜り抜けると、茑がからみついて少し开きにくい位になったその木戸をこじあけて、そのまま庭から、この间まではアトリエに使われていた、离れのようになった病室の方へ近づいていった。

“喏,大概已经起来了吧……请!没关系的,你从这儿穿过去吧……”节子父亲用拿著剪刀的手,示意我要往庭院的木门走。我费力地从树丛中钻出,推开被常春藤缠绕得有些难开的木门,径直穿过院子,朝著此前一直当画室用但现今却仿佛已被隔绝的病房走去。

节子は、私の来ていることはもうとうに知っていたらしいが、私がそんな庭からはいって来ようとは思わなかったらしく、寝间着の上に明るい色の羽织をひっかけたまま、长椅子の上に横になりながら、细いリボンのついた、见かけたことのない妇人帽を手でおもちゃにしていた。

节子好像一开始就知道我来了。但似乎没有想到我会从这个院子进来。她在睡衣上披了一件色彩鲜艳的短外褂,就这样一边躺在长椅上,一边在手中把玩著一顶此前从未见过的、带著细缎带的女士帽。

私がフレンチ扉ごしにそういう彼女を目に入れながら近づいて行くと、彼女の方でも私を认めたらしかった。彼女は无意识に立ち上ろうとするような身动きをした。が、彼女はそのまま横になり、颜を私の方へ向けたまま、すこし気まり悪そうな微笑で私を见つめた。

透过法式门,我注视著她,渐渐走近,而她好像也发现了我。她下意识地动了一下,似乎想站起来,却依旧躺著,把脸朝向我,略带羞涩地微笑著,注视著我。

「起きていたの?」私は扉のところで、いくぶん乱暴に靴を脱ぎながら、声をかけた。“你没睡吗?”我在门口一边有些胡乱地脱著鞋子,一边打著招呼。

「ちょっと起きてみたんだけれど、すぐ疲れちゃったわ」
“是想起来看看,可是转眼就累了。”


そう言いながら、彼女はいかにも疲れを帯びたような、力なげな手つきで、ただ何んということもなしに手で弄んでいたらしいその帽子を、すぐ脇にある镜台の上へ无造作にほうり投げた。が、それはそこまで届かないで床の上に落ちた。私はそれに近寄って、殆ど私の颜が彼女の足のさきにくっつきそうになるように屈み込んで、その帽子を拾い上げると、今度は自分の手で、さっき彼女がそうしていたように、それをおもちゃにし出していた。

这样说著,她用疲惫无力的手势,把那顶只是漫无目的地在手里把玩的帽子随意的扔在紧靠身边的梳妆台。但是,帽子没有扔到的地方,落到了地板上。我走过去,弯下腰拾起帽子,脸几乎要碰到她的脚尖。这回,我自己就像她刚才那样把帽子拿在手里把玩。

それから私はやっと讯いた。「こんな帽子なんぞ取り出して、何をしていたんだい?」
后来,我终於开口问道:“拿出这种帽子来做什麼?”

「そんなもの、いつになったら被れるようになるんだか知れやしないのに、お父様ったら、きのう买っておいでになったのよ。……おかしなお父様でしょう?」
“这帽子,不知道什麼时候可以戴了……是爸爸昨天买回来的……我爸是不是有些怪?”
「これ、お父様のお见立てなの? 本当に好いお父様じゃないか。……どおれ、この帽子、ちょっとかぶって御覧」と私が彼女の头にそれを冗谈半分かぶせるような真似をしかけると、
“这个……是你爸帮你挑的麼?你爸真好……怎麼样?把帽子戴上试试?”我半开玩笑地做出把帽子往头上戴的动作。

「厌、そんなこと……」
“不,别这样……”

彼女はそう言って、うるさそうに、それを避けでもするように、半ば身を起した。そうして言い诀のように弱々しい微笑をして见せながら、ふいと思い出したように、いくぶん痩せの目立つ手で、すこし縺れた髪を直しはじめた。その何気なしにしている、それでいていかにも自然に若い女らしい手つきは、それがまるで私を爱抚でもし出したかのような、呼吸づまるほどセンシュアルな魅力を私に感じさせた。そうしてそれは、思わずそれから私が目をそらさずにはいられないほどだった……

她这样说著,做出一副厌烦的样子,抬起半个身子,似乎要避开。随后,像是要解释一下似的露出梨涡浅笑,同时,仿佛突然想起什麼似的,用明显消瘦的手,整理起有些淩乱的秀发。那无意识的、极其自然的、韵味十足的女孩子的手势,简直就像在爱抚著我一样,让我感受到了几乎透不过气来的性感的魅力。而那动作竟然使我不由自主地把视线移开。

やがて私はそれまで手で弄んでいた彼女の帽子を、そっと脇の镜台の上に载せると、ふいと何か考え出したように黙りこんで、なおもそういう彼女からは目をそらせつづけていた。
过了一会儿,我把一直拿在手里把玩的帽子悄悄地放在旁边的梳妆台上,然后所有所思地陷入沉默,视线继续避开她。

「おおこりになったの?」と彼女は突然私を见上げながら、気づかわしそうに问うた。
“你生气了?”她突然抬起头看我,小心地问道。

「そうじゃないんだ」と私はやっと彼女の方へ目をやりながら、それから话の続きでもなんでもなしに、出し抜けにこう言い出した。「さっきお父様がそう言っていらしったが、お前、ほんとうにサナトリウムに行く気かい?」
“没。”我终於把目光转到她那边,然后前言不搭后语地冷不丁说道:“你爸爸刚说了,你真的想去疗养院麼?”

「ええ、こうしていても、いつ良くなるのだか分らないのですもの。早く良くなれるんなら、何処へでも行っているわ。でも……」
“想啊。这样呆著,也不知道什麼时候才能好。要是能早点好了,就哪儿都可以去了。可……”

「どうしたのさ? なんて言うつもりだったんだい?」
“怎麼啦?怎麼说起这件事来了?”
「なんでもないの」
“没什麼。”

「なんでもなくってもいいから言って御覧。……どうしても言わないね、じゃ仆が言ってやろうか? お前、仆にも一绪に行けというのだろう?」
“不要紧,你说吧。……你不应该告诉我吗?你不是说了也让我一起去吗?”
「そんなことじゃないわ」と彼女は急に私を遮ろうとした。
“不是这个意思。”她突然想打断我。

しかし私はそれには构わずに、最初の调子とは异って、だんだん真面目になりだした、いくぶん不安そうな调子で言いつづけた。「……いや、お前が来なくともいいと言ったって、そりあ仆は一绪に行くとも。だがね、ちょっとこんな気がして、それが気がかりなのだ。……仆はこうしてお前と一绪にならない前から、何処かの淋しい山の中へ、おまえみたいな可哀らしい娘と二人きりの生活をしに行くことを梦みていたことがあったのだ。お前にもずっと前にそんな私の梦を打ち明けやしなかったかしら? ほら、あの山小屋の话さ、そんな山の中に私达は住めるのかしらと云って、あのときはお前は无邪気そうに笑っていたろう? ……実はね、こんどお前がサナトリウムへ行くと言い出しているのも、そんなことが知らず识らずの里にお前の心を动かしているのじゃないかと思ったのだ。……そうじゃないのかい?」

但是我没有理睬。用一种跟最初不一样、愈发认真但又有些不安的语气继续说: “不……即使你告诉我:你不来也可以。我也会照样跟你一起去的。可是,我有这麼一种感觉……就是……有点儿担心……我在和你这样在一起以前,曾经做了一个梦。梦见我和一个像你这样的可爱的姑娘,去了一个寂寞的山中,过著只有两个人的生活。我不是跟你坦白过有这麼一个梦麼?哎,那个山间小屋的故事……我还问你在这种山里我们该怎麼住,当时你笑得好天真。其实我觉得,这次你提出要去疗养院,是不是因为我那个梦让你不知不觉动心了……是不是?……”

彼女はつとめて微笑みながら、黙ってそれを闻いていたが、
她努力地微笑著,默默听著。忽然,她干乾脆脆地说:

「そんなこともう覚えてなんかいないわ」
“那种事情,我早就忘了。”

と彼女はきっぱりと言った。それから宁ろ私の方をいたわるような目つきでしげしげと见ながら、「あなたはときどき飞んでもないことを考え出すのね……」
然后,用一种不如说是安慰的眼神凝视著我,说:“你总是时不时冒出些出人意料的东西啊……”

それから数分后、私达は、まるで私达の间には何事もなかったような颜つきをして、フレンチ扉の向うに、芝生がもう大ぶ青くなって、あちらにもこちらにも阳炎らしいものの立っているのを、一绪になって珍らしそうに眺め出していた。

过了几分钟,我们带著就像我们之间根本没有发生过事情一样的表情,一起珍惜地望著法式门外的草坪。草坪上绿意盎然,处处翻腾著水汽……


四月になってから、节子の病気はいくらかずつ恢复期に近づき出しているように见えた。そしてそれがいかにも遅々としていればいるほど、その恢复へのもどかしいような一歩一歩は、かえって何か确実なもののように思われ、私达には云い知れず頼もしくさえあった。

到了四月,节子的病情看起来有些逐步接近恢复期了。那恢复著实缓慢,缓慢得令人焦躁不安。而正是如此艰难的迈向恢复的一步一步,反而令人感到一种真实。对於我们来说,这甚至是一种难以形容的依靠。

そんな或る日の午后のこと、私が行くと、丁度父は外出していて、节子は一人で病室にいた。その日は大へん気分もよさそうで、いつも殆ど着たきりの寝间着を、めずらしく青いブラウスに着换えていた。私はそういう姿を见ると、どうしても彼女を庭へ引っぱり出そうとした。すこしばかり风が吹いていたが、それすら気持のいいくらい软らかだった。彼女はちょっと自信なさそうに笑いながら、それでも私にやっと同意した。そうして私の肩に手をかけて、フレンチ扉から、何んだか危かしそうな足つきをしながら、おずおずと芝生の上へ出て行った。生墙に沿うて、いろんな外国种のも混じって、どれがどれだか见分けられないくらいに枝と枝を交わしながら、ごちゃごちゃに茂っている植込みの方へ近づいてゆくと、それらの茂みの上には、あちらにもこちらにも白や黄や淡紫の小さな莟がもう今にも咲き出しそうになっていた。私はそんな茂みの一つの前に立ち止まると、去年の秋だったか、それがそうだと彼女に教えられたのをひょっくり思い出して、

一天下午,我去到她的家,恰好她父亲出门在外,节子一个人在病房里。那天,她的心情似乎相当的好,非常难得地把总是穿在身上就不换的睡衣,换成了蓝色的罩衫。我看到她这装扮,下定主意把她拉出去到院子里。虽然有些许风,但也是柔柔的,令人心旷神怡。她略带不自信的笑著,但最终还是同意了我的提议。於是她的手搭在我的肩上,走出法式大门,谨小慎微地迈著步,战战兢兢的来到了草坪。沿著灌木的围墙,走进各种外国品种混杂在一起、枝桠交错、难分彼此、枝繁叶茂的园林。在这一片繁茂之上,到处都白色、黄色、淡紫色的小花蕾含苞欲放。我止步于这繁茂的一处。暮然想起去年秋天她告诉我花卉名称的情景。

「これはライラックだったね?」と彼女の方をふり向きながら、半ば讯くように言った。「それがどうもライラックじゃないかも知れないわ」と私の肩に軽く手をかけたまま、彼女はすこし気の毒そうに答えた。
“这个应该是紫丁香吧!”我一边把头转向她,一边半带询问地说。“那可不是紫丁香。”她依然把手轻轻搭在我的肩上,有些过意不去地说。

「ふん……じゃ、いままで嘘を教えていたんだね?」
“哼……那麼,你一直都在误人子弟。”

「嘘なんか冲きやしないけれど、そういって人から顶戴したの。……だけど、あんまり好い花じゃないんですもの」
“我倒是没有撒什麼谎.,那也是拜人所赐。……只是,现在也没有什麼好看的花了。”

「なあんだ、もういまにも花が咲きそうになってから、そんなことを白状するなんて! じゃあ、どうせあいつも……」私はその隣りにある茂みの方を指さしながら、「あいつは何んていったっけなあ?」
“什麼呀,眼看这花就要开了。现在才坦白这事!莫非那个也是……”我指住旁边的树丛。“那是什麼?”

「金雀児?」と彼女はそれを引き取った。私达は今度はそっちの茂みの前に移っていった。“金雀儿?”她把枝条拿在手里。我们这时挪到这片树丛前边。

「この金雀児は本物よ。ほら、黄いろいのと白いのと、莟が二种类あるでしょう? こっちの白いの、それあ珍らしいのですって……お父様の御自慢よ……」
“这个金雀儿可是真的。看,有黄色、白色两种花蕾哦!这边白色的,据说是相当稀有的。那可是我父亲的骄傲啊……”

そんな他爱のないことを言い合いながら、その间じゅう节子は私の肩から手をはずさずに、しかし疲れたというよりも、うっとりとしたようになって、私に靠れかかっていた。それから私达はしばらくそのまま黙り合っていた。そうすることがこういう花咲き匂うような人生をそのまま少しでも引き留めて置くことが出来でもするかのように。ときおり软らかな风が向うの生墙の间から抑えつけられていた呼吸かなんぞのように押し出されて、私达の前にしている茂みにまで达し、その叶を仅かに持ち上げながら、それから其処にそういう私达だけをそっくり完全に残したまんま通り过ぎていった。

交谈著这些无足轻重的事情,节子的手始终没有离开我的肩膀。与其说她是累了,倒不如说是出了神,靠在我的肩上了。然后,我们就这样久久的相视无语。仿佛这样就能够原封不动地挽留这个花开吐芳的人生更久一些。柔和的微风偶尔从对面的灌木墙缝隙里挤出,宛如被控制的呼吸,抵达我们前面的树丛,将树叶微微的抬起,然后行将过去,将现在的我们原封不动地留在这里。

突然、彼女が私の肩にかけていた自分の手の中にその颜を埋めた。私は彼女の心臓がいつもよりか高く打っているのに気がついた。
突然,她把脸埋在自己搭在我肩上的手中。我发现她的心脏比平时跳得更加强烈了。

「疲れたの?」私はやさしく彼女に讯いた。
“累了?”我柔声问她。

「いいえ」と彼女は小声に答えたが、私はますます私の肩に彼女のゆるやかな重みのかかって来るのを感じた。
“不是。”她小声回答道。但我感受到她的体重,缓缓地压到我的肩上。

「私がこんなに弱くって、あなたに何んだかお気の毒で……」彼女はそう嗫いたのを、私は闻いたというよりも、むしろそんな気がした位のものだった。
“我身体这麼差。总觉得对不起你……”她的耳语很轻,与其是说我听到了,不如说是我感受到了。

「お前のそういう脆弱なのが、そうでないより私にはもっとお前をいとしいものにさせているのだと云うことが、どうして分らないのだろうなあ……」と私はもどかしそうに心のうちで彼女に呼びかけながら、しかし表面はわざと何んにも闻きとれなかったような様子をしながら、そのままじっと身动きもしないでいると、彼女は急に私からそれを反らせるようにして颜をもたげ、だんだん私の肩から手さえも离して行きながら、「どうして、私、この顷こんなに気が弱くなったのかしら? こないだうちは、どんなに病気のひどいときだって何んとも思わなかった癖に……」

“你是这样的柔弱,更让我感到怜爱。你怎麼不明白呢……”我在心里焦急地呼唤,但表面上却故意装出什麼都没听见的样子,一动不动,没有应答她。她忽然仰起脸,抬起头,渐渐地,手也离开了我的肩膀,一边走一边用低沉的声音,宛如自言自语一样,含含糊糊地说:“为什麼?我……这个时候……还表现得这麼懦弱?……这些日子,不管病得多重,我都没有胡思乱想,但是……”

と、ごく低い声で、独り言でも言うように口ごもった。沈黙がそんな言叶を気づかわしげに引きのばしていた。そのうち彼女が急に颜を上げて、私をじっと见つめたかと思うと、それを再び伏せながら、いくらか上ずったような中音で言った。「私、なんだか急に生きたくなったのね……」

沉默,令人忧虑地延长著这些话。沉默中,她猛地抬起头。我还以为她要注视我,她却再次把头低了下来,用略微抬高了的中音说:“我不知道为什麼突然又想活下去……”

それから彼女は闻えるか闻えない位の小声で言い足した。「あなたのお荫で……」
然后,她用听得见但又听不见的声音补充道:“因为有你……”

* * * 


それは、私达がはじめて出会ったもう二年前にもなる夏の顷、不意に私の口を冲いて出た、そしてそれから私が何んということもなしに口ずさむことを好んでいた、

那是我们两年前第一次见面的那个夏天。我不经意间脱口而出、而后也无缘无故地喜欢吟诵的诗句:

风立ちぬ、いざ生きめやも。
纵有疾风起,人生不言弃。

という诗句が、それきりずっと忘れていたのに、又ひょっくりと私达に苏ってきたほどの、――云わば人生に先立った、人生そのものよりかもっと生き生きと、もっと切ないまでに愉しい日々であった。

这句诗,突然间又为我们找回了那段时候一直都已忘怀的时光——换言之,人生最重要的、从人生自身到更加生动鲜活、更加烦恼苦闷的、快乐的每一天。

私达はその月末に八ヶ岳山麓のサナトリウムに行くための准备をし出していた。私は、一寸した识合いになっている、そのサナトリウムの院长がときどき上京する机会を捉えて、其処へ出かけるまでに一度节子の病状を诊て贳うことにした。

我们开始为月末去八岳山麓疗养院做准备了。决定抓住那位相交不深的疗养院院长常常进京的机会,在出发之前请他看看节子的病情。 

或る日、やっとのことで郊外にある节子の家までその院长に来て贳って、最初の诊察を受けた后、「なあに大したことはないでしょう。まあ、一二年山へ来て辛抱なさるんですなあ」と病人达に言い残して忙しそうに帰ってゆく院长を、私は駅まで见送って行った。私は彼から自分にだけでも、もっと正确な彼女の病态を闻かしておいて贳いたかったのだった。

这一天,好不容易请到那位院长来到郊外的节子家。接受了第一次检查之后,他说:“问题不大。嗯,得到山里苦个一两年吧!”院长给我们留下这些话,就匆匆忙忙的回去了。我把院长送到车站,想从他那里听到只能告诉我的、关於节子的更准确的病情。

「しかし、こんなことは病人には言わぬようにしたまえ。父亲にはそのうち仆からもよく话そうと思うがね」院长はそんな前置きをしながら、少し気むずかしい颜つきをして节子の容态をかなり细かに私に说明してくれた。それからそれを黙って闻いていた私の方をじっと见て、「君もひどく颜色が悪いじゃないか。ついでに君の身体も诊ておいてやるんだったな」と私を気の毒がるように言った。

“这个……这种事情,不要跟节子说。她父亲那边,我想在近几天跟他详细谈谈。”院长说这些开场白之后,带著几分痛苦的表情,非常详细地向我说明了节子的情况。“你的脸色不也是非常难看吗?我顺便也检查检查你的身体。”他难掩同情地跟我说。

駅から私が帰って、再び病室にはいってゆくと、父はそのまま寝ている病人の傍に居残って、サナトリウムへ出かける日取などの打ち合わせを彼女とし出していた。なんだか浮かない颜をしたまま、私もその相谈に加わり出した。「だが……」父はやがて何か用事でも思いついたように、立ち上がりながら、「もうこの位に良くなっているのだから、夏中だけでも行っていたら、よかりそうなものだがね」といかにも不审そうに言って、病室を出ていった。

我从车站回来回到病房,节子的父亲依旧躺在节子身边,开始和她商议著挑选去疗养院的出发日期之类的事情。我依旧带著无精打采的表情,加入到他们的讨论之中。“可是……”不一会儿,父亲好像想起了什麼事情似的,一边站起来一边令人摸不著头脑的说:“已经恢复得这样了,只要夏天过去,一切应该都会变得很好的啊。”说著,就走出了病房。

二人きりになると、私达はどちちからともなくふっと黙り合った。それはいかにも春らしい夕暮であった。私はさっきからなんだか头痛がしだしているような気がしていたが、それがだんだん苦しくなってきたので、そっと目立たぬように立ち上がると、硝子扉の方に近づいて、その一方の扉を半ば开け放ちながら、それに靠れかかった。そうしてしばらくそのまま私は、自分が何を考えているのかも分からない位にぼんやりして、一面にうっすらと霭の立ちこめている向うの植込みのあたりへ「いい匂がするなあ、何んの花のにおいだろう――」と思いながら、空虚な目をやっていた。

只剩下两个人了,我们都不由自主地沉默了起来。那是一个名副其实的春日黄昏。我刚才觉得莫名的头疼,而这种疼痛的感觉越来越加深了。於是,我不想引起注意,悄悄的站了起来,走到玻璃门边,把半边门打开一半,便靠在了门上。就这样,我一动不动地发呆,也不知道自己在想什麼,空虚的眼神投向背面腾起一片薄雾的树丛里边,心里想著:“真香啊,那是什麼花的香气……”

「何をしていらっしゃるの?」
“你在干嘛?”

私の背后で、病人のすこし嗄れた声がした。それが不意に私をそんな一种の麻痹したような状态から覚醒させた。私は彼女の方には背中を向けたまま、いかにも何か他のことでも考えていたような、取ってつけたような调子で、「お前のことだの、山のことだの、それからそこで仆达の暮らそうとしている生活のことだのを、考えているのさ……」

我的背后,传来节子略带沙哑的声音。这声音突如其来的把我从这种恍惚麻痹的状态下唤醒。我背对著她不动,用假装出来的、若有所思似的语调,断断续续地说:“我在想你的事情、山里的事情、还有在那里我们要过的生活。”

と途切れ途切れに言い出した。が、そんなことを言い続けているうちに、私はなんだか本当にそんな事を今しがたまで考えていたような気がしてきた。そうだ、それから私はこんなことも考えていたようだ――。
而这样不断地说著的时候,不知道为什麼,我竟觉得直到刚才才真的在想这些事情。是的,那以后,我好像也思考了这些事情。

「向うへいったら、本当にいろいろな事が起るだろうなあ。……しかし人生というものは、お前がいつもそうしているように、何もかもそれに任せ切って置いた方がいいのだ。……そうすればきっと、私达がそれを希おうなどとは思いも及ばなかったようなものまで、私达に与えられるかも知れないのだ。……」そんなことまで心の里で考えながら、それには少しも自分では気がつかずに、私はかえって何んでもないように见える些细な印象の方にすっかり気をとられていたのだ。……

“到了那边,真的应该有各种事情发生的……但是,人生这个东西,就像你一直做的那样,可以把一切都交给他。如果能这样,就一定会把我们也许想都想不到去祈求的东西赐给我们。”我心里这样想著,反而被一些细微的印象彻底吸引进去,而自己却丝毫没有注意到。

そんな庭面はまだほの明るかったが、気がついて见ると、部屋のなかはもうすっかり薄暗くなっていた。
庭院还微微地亮著,而当我注意到的时候,房子里已经完全变得昏暗起来。

「明りをつけようか?」私は急に気をとりなおしながら言った。
“要把灯打开吗?”我回过神来问道。

「まだつけないでおいて顶戴……」そう答えた彼女の声は前よりも嗄れていた。
“还是别开了……”她的回答声比刚才更加沙哑了。 

しばらく私达は言叶もなくていた。
良久,我们都没有说过话。

「私、すこし息ぐるしいの、草のにおいが强くて……」
“我有些喘不过气来了,草的气味太浓了。”

「じゃ、ここも缔めて置こうね」
“那……我去把门关了。” 

私は、殆ど悲しげな调子でそう応じながら、扉の握りに手をかけて、それを引きかけた。我用近乎悲伤的语调这样应和著,抓住门把手,把门拉上。

「あなた……」彼女の声は今度は殆ど中性的なくらいに闻えた。「いま、泣いていらしったんでしょう?」
“你……”这一次,她的声音听起来几乎就是中性的,“你刚才在哭吗?”

私はびっくりした様子で、急に彼女の方をふり向いた。
我做出吃惊的样子,突然转向她。

「泣いてなんかいるものか。……仆を见て御覧」
“谁哭了……不信你看看我。”

彼女は寝台の中から私の方へその颜を向けようともしなかった。もう薄暗くってそれとは定かに认めがたい位だが、彼女は何かをじっと见つめているらしい。しかし私がそれを気づかわしそうに自分の目で追って见ると、ただ空を见つめているきりだった。

她甚至不想从床里把脸转向我,尽管天色昏暗,难以确认,但是她看上去是在全神贯注地看著什麼东西。而当我担心地把视线追过去的时候,却看到她在凝视著上空。

「わかっているの、私にも……さっき院长さんに何か言われていらしったのが……」
“其实……我也知道……刚才院长说了些什麼……”

私はすぐ何か答えたかったが、何んの言叶も私の口からは出て来なかった。私はただ音を立てないようにそっと扉を缔めながら再び、夕暮れかけた庭面を见入り出した。

我想马上回答些什麼,但什麼也说不出来。我只是轻轻地再次关紧门,出神地注视著即将黄昏的庭院。

やがて私は、私の背后に深い溜息のようなものを闻いた。
过了一会儿,我听到了背后深深的叹息。

「御免なさい」彼女はとうとう口をきいた。その声はまだ少し颤えを帯びていたが、前よりもずっと落着いていた。「こんなこと気になさらないでね……。私达、これから本当に生きられるだけ生きましょうね……」

“对不起。”她终於开口了。那声音虽然仍有些颤抖,但比以前镇定了许多。“这些事情……请你不要太过在意,我们……今后能活多久就多久吧……”

私はふりむきながら、彼女がそっと目がしらに指先をあてて、そこにそれをじっと置いているのを认めた。

我转过头,看见她悄悄地把指尖放在内眼角上,一直没有移开。

* * *


四月下旬の或る薄昙った朝、停车场まで父に见送られて、私达はあたかも蜜月の旅へでも出かけるように、父の前はさも愉しそうに、山岳地方へ向う汽车の二等室に乗り込んだ。汽车は徐かにプラットフォームを离れ出した。その迹に、つとめて何気なさそうにしながら、ただ背中だけ少し前屈みにして、急に年とったような様子をして立っている父だけを一人残して。――

四月下旬一个微云的早晨,节子的父亲把我们送到了停车场。我们好像出发去度蜜月一样,当著父亲的面,非常高兴地乘上了前往山岳地方的火车的二等车厢。火车缓缓离开了月台。车后,只留下父亲一人努力装作若无其事地站著,他的后背已经微微前屈,仿佛突然变老了。

すっかりプラットフォームを离れると、私达は窓を缔めて、急に淋しくなったような颜つきをして、空いている二等室の一隅に腰を下ろした。そうやってお互の心と心を温め合おうとでもするように、膝と膝とをぴったりとくっつけながら……

完全离开月台后,我们关上车窗,一下子表情变得寂寞起来,在二等车厢空著的一个角落坐了下来。我们膝盖和膝盖紧紧的贴在一起,仿佛这样就能够相互温暖对方的心……


风雪黄昏



私达の乗った汽车が、何度となく山を攀じのぼったり、深い渓谷に沿って走ったり、又それから急に打ち展けた葡萄畑の多い台地を长いことかかって横切ったりしたのち、渐っと山岳地帯へと果てしのないような、执拗な登攀をつづけ出した顷には、空は一层低くなり、いままではただ一面に锁ざしているように见えた真っ黒な云が、いつの间にか离れ离れになって动き出し、それらが私达の目の上にまで圧しかぶさるようであった。空気もなんだか底冷えがしだした。上衣の襟を立てた私は、肩挂にすっかり体を埋めるようにして目をつぶっている节子の、疲れたと云うよりも、すこし兴奋しているらしい颜を不安そうに见守っていた。彼女はときどきぼんやりと目をひらいて私の方を见た。はじめのうちは二人はその度毎に目と目で微笑みあったが、しまいにはただ不安そうに互を见合ったきり、すぐ二人とも目をそらせた。そうして彼女はまた目を闭じた。

我们乘坐的火车一次次地攀上高山,沿著深深的溪谷奔跑,然后花了很长时间的横穿后,大地突然开阔起来,在经过了一个有很多葡萄园的台地以后,终於奔向山岳地带。在这似乎没有尽头的、顽强地不断的攀登的途中,天空变得更低了,刚才看起来还是被束成一团的漆黑云朵,不知何时四分五裂地浮动起来,仿佛要直压我们的眼前。空气也开始彻骨地寒冷起来。我束起上衣的衣领,不安地守望著想把身子全埋在披肩里、闭著眼睛的节子,她脸上写满的与其说是疲劳,不如说是有些许兴奋。她时而漠然地睁开眼睛看我。最初,两个人每次还互相用眼睛对视微笑著,而后便只是互相不安地对视,马上又都把视线移开。然后她又闭上了眼睛。

「なんだか冷えてきたね。雪でも降るのかな」
“怎麼好像冷了起来,是不是下雪了?”

「こんな四月になっても雪なんか降るの?」
“才刚过了四月,也会下雪吗?”

「うん、この辺は降らないともかぎらないのだ」
“诶,这一带就是不能保证不下雪的。”

まだ三时顷だというのにもうすっかり薄暗くなった窓の外へ目を注いだ。ところどころに真っ黒な枞をまじえながら、叶のない落叶松が无数に并び出しているのに、すでに私达は八ヶ岳の裾を通っていることに気がついたが、まのあたりに见える筈の山らしいものは影も形も见えなかった。……
虽然才三点左右,窗外已完全变得昏暗。我凝望著窗外,发现到处排列著无数没有叶子的落叶松,间或混著些枞树。我们已经过了八岳山脚,而眼下就应该看到的像山的东西却还是无影无踪。

汽车は、いかにも山麓らしい、物置小屋と大してかわらない小さな駅に停车した。駅には、高原疗养所の印のついた法被を着た、年とった、小使が一人、私达を迎えに来ていた。火车在山麓那个和小仓库没有多大区别的小站停了下来。车站上,有一名穿著“高原疗养所”标志的号衣、上了年纪的勤杂工来迎接我们。

駅の前に待たせてあった、古い、小さな自动车のところまで、私は节子を腕で支えるようにして行った。私の腕の中で、彼女がすこしよろめくようになったのを感じたが、私はそれには気づかないようなふりをした。
我用胳膊架著节子,走向车站前久候多时的、又旧又小的汽车。在我的臂弯里,我感觉到她有些踉跄,但却装出没有察觉的样子。

「疲れたろうね?」“累了吗?”
「そんなでもないわ」“不累。”

私达と一绪に下りた数人の土地の者らしい人々が、そういう私达のまわりで何やら嗫き合っていたようだったが、私达が自动车に乗り込んでいるうちに、いつのまにかその人々は他の村人たちに混って见分けにくくなりながら、村のなかに消えていた。

和我们一起下车的几个当地人,在我们周围窃窃私语著什麼。而当我们乘上汽车的时候,那些人便在不知不觉间,与其他村民混杂在一起,难以辨别,消逝在村落之中。

私达の自动车が、みすぼらしい小家の一列に続いている村を通り抜けた后、それが见えない八ヶ岳の尾根までそのまま果てしなく拡がっているかと思える凸凹の多い倾斜地へさしかかったと思うと、背后に雑木林を背负いながら、赤い屋根をした、いくつも侧翼のある、大きな建物が、行く手に见え出した。

我们的汽车穿过简陋的小屋连成一列的村庄,刚一进入,在那无穷无尽扩展开来、直至遥不可及的八岳山脊、凹凸不平的斜坡前方,我们看到了一幢背靠杂木林、有著红色屋顶和几个侧楼的巨大建筑物。

「あれだな」と、私は车台の倾きを身体に感じ出しながら、つぶやいた。
“是那个吧!”我一边用身体感受著车体的倾斜,一边喃喃自语道。

节子はちょっと颜を上げ、いくぶん心配そうな目つきで、それをぼんやりと见ただけだった。
节子只是微微地扬起脸,用略带忧郁的眼神,木然地看著它。

サナトリウムに着くと、私达は、その一番奥の方の、裏がすぐ雑木林になっている、病栋の二阶の第一号室に入れられた。简単な诊察后、节子はすぐベッドに寝ているように命じられた。リノリウムで床を张った病室には、すべて真っ白に涂られたベッドと卓と椅子と、――それからその他には、いましがた小使が届けてくれたばかりの数个のトランクがあるきりだった。二人きりになると、私はしばらく落着かずに、附添人のために宛てられた狭苦しい侧室にはいろうともしないで、そんなむき出しな感じのする室内をぼんやりと见廻したり、又、何度も窓に近づいては、空模様ばかり気にしていた。风が真っ黒な云を重たそうに引きずっていた。そしてときおり裏の雑木林から锐い音を?いだりした。私は一度寒そうな恰好をしてバルコンに出て行った。バルコンは何んの仕切もなしにずっと向うの病室まで続いていた。その上には全く人けが绝えていたので、私は构わずに歩き出しながら、病室を一つ一つ覗いて行って见ると、丁度四番目の病室のなかに、一人の患者の寝ているのが半开きになった窓から见えたので、私はいそいでそのまま引っ返して来た。

到了疗养院之后,我们被安排到最里边、背后就是杂木林的那幢住院楼的二楼第一号病房。简单检查之后,节子被命令马上上床躺下。在油毡铺地的病房里,除了勤杂工刚刚送来的几只行李箱,就是被漆成飒白的床和桌椅。只剩下两个人之后,我久久都不能平静,不时来到专门分配给陪护人的狭窄不堪的侧室,漠然的环顾著这令人感觉无遮无拦的室内,又数次走近窗户,专心观察天气的变化。风费力地拖曳著漆黑的云,时而从背后的杂木林挤出尖锐的声音。我一度走到阳台,做出一副很冷的样子。阳台没有任何隔断,一直通向那边的病房。我满不在乎地走去,窥望著每一间病房。正好在第四间病房,可以透过半开的窗子,看到一位患者在睡觉。於是,我马上就匆匆忙忙的回来了。

やっとランプが点いた。それから私达は看护妇の运んで来てくれた食事に向い合った。それは私达が二人きりで最初に共にする食事にしては、すこし侘びしかった。食事中、外がもう真っ暗なので何も気がつかずに、唯何んだかあたりが急に静かになったなと思っていたら、いつのまにか雪になり出したらしかった。

终於,灯亮了。然后,我们围坐在护士送来的饭菜前。那是我们第一次只有两个人在一起的就餐。就此而言,有些冷清。吃饭的时候,外面已经漆黑一片,所以也没有注意到什麼,只是突然间觉得不知为什麼四周忽然寂静了下来,原来不知何时天空飘起了雪。

私は立ち上って、半开きにしてあった窓をもう少し细目にしながら、その硝子に颜をくっつけて、それが私の息で昙りだしたほど、じっと雪のふるのを见つめていた。それからやっと其処を离れながら、节子の方を振り向いて、「ねえ、お前、何んだってこんな……」と言い出しかけた。

我站起身来,把半开的窗子再关紧一点,然后,把脸凑到那玻璃跟前,一动不动地凝视著雪花沉沉下坠——以致於那玻璃因为我的气息而起了雾。过了许久,我离开那里,并转向节子说:“哎,你怎麼啦……”

彼女はベッドに寝たまま、私の颜を诉えるように见上げて、それを私に言わせまいとするように、口へ指をあてた。

她依旧躺在床上,目光如炬地仰望住我的脸,却把手指放在嘴唇上,仿佛又不想对我说出那些话。

* * *


八ヶ岳の大きなのびのびとした代赭色の裾野が渐くその勾配を弛めようとするところに、サナトリウムは、いくつかの侧翼を并行に拡げながら、南を向いて立っていた。その裾野の倾斜は更に延びて行って、二三の小さな山村を村全体倾かせながら、最后に无数の黒い松にすっかり包まれながら、见えない溪间のなかに尽きていた。

疗养院在宏大延绵、深褐色的八岳山麓由陡及缓处向南而立,并列地伸展著几行侧翼。山麓的倾斜继续延伸著,使得三三两两的山村也都倾斜著,最后被无数的黑松树彻底覆盖,终止於视野之外的山谷。

サナトリウムの南に开いたバルコンからは、それらの倾いた村とその赭ちゃけた耕作地が一帯に见渡され、更にそれらを取り囲みながら果てしなく并み立っている松林の上に、よく晴れている日だったならば、南から西にかけて、南アルプスとその二三の支脉とが、いつも自分自身で涌き上らせた云のなかに见え隠れしていた。

从疗养院南向开放的阳台望去,可将那一带倾斜的山村和褐色的耕地尽收眼底。而且如果是晴朗的好日子,在环绕的村庄和田野、排列紧密、无边无际的松林之上,总能看见自西而东的南阿尔卑斯山脉和它的几个支脉,在自己生成的云海中若隐若现。

サナトリウムに着いた翌朝、自分の侧室で私が目を醒ますと、小さな窓枠の中に、蓝青色に晴れ切った空と、それからいくつもの真っ白い鶏冠のような山颠が、そこにまるで大気からひょっくり生れでもしたような思いがけなさで、殆んど目ながいに见られた。そして寝たままでは见られないバルコンや屋根の上に积った雪からは、急に春めいた日の光を浴びながら、绝えず水蒸気がたっているらしかった。

到达疗养院的第二天早晨,我在自己的侧室里醒来。小窗框中,晴澈的蓝天和几座雪白的、鸡冠似的山峰,宛如从大气中突然诞生出来似的,出人意料地呈现在眼前。而躺著时看不见的阳台及屋里的积雪,沐浴著突然到来的、春意盎然的阳光,似乎正在不断地散发著水蒸气。

すこし寝过したくらいの私は、いそいで飞び起きて、隣りの病室へはいって行った。节子は、すでに目を醒ましていて、毛布にくるまりながら、ほてったような颜をしていた。
大概有点睡过头了,我急忙跳起来,走进隔壁的病房。节子已经醒了,裹在毛毯里,一脸绯红。

「お早う」私も同じように、颜がほてり出すのを感じながら、気軽そうに言った。「よく寝られた?」“早啊!”
我也感觉到自己的脸也在涨红,轻松的说:“睡得好吗?”

「ええ」彼女は私にうなずいて见せた。「ゆうべ睡眠剤を饮んだの。なんだか头がすこし痛いわ」
“好。”她对我颌首示意,“昨天吃安眠药了,不知道怎麼回事,有点头疼。”

私はそんなことになんか构っていられないと云った风に、元気よく窓も、それからバルコンに通じる硝子扉も、すっかり开け放した。まぶしくって、一时は何も见られない位だったが、そのうちそれに目がだんだん驯れてくると、雪に埋れたバルコンからも、屋根からも、野原からも、木からさえも、軽い水蒸気の立っているのが见え出した。

我做出那种无所谓的样子,劲头十足地把窗户以及通往阳台的玻璃门全部打开。眼睛被光晃得一时间几乎什麼都看不见了。而当眼睛慢慢适应之后,逐渐看见被雪埋住的阳台、屋顶、原野、树木,上腾著轻盈的水蒸气。

「それにとても可笑しな梦を见たの。あのね……」彼女が私の背后で言い出しかけた。
“而且,我做了一个很奇怪的梦。”她在我背后开始说了起来。

私はすぐ、彼女が何か打ち明けにくいようなことを无理に言い出そうとしているらしいのを覚った。そんな场合のいつものように、彼女のいまの声もすこし嗄れていた。

我马上感觉到她似乎在努力说出什麼难以启齿的事情。就像每次遇到这种情况时一样,她现在的声音也略带沙哑。

今度は私が、彼女の方を振り向きながら、それを言わせないように、口へ指をあてる番だった。……

这次轮到我转向她,把手指放在嘴上,不让她说出声来……

やがて看护妇长がせかせかした亲切そうな様子をしてはいって来た。こうして看护妇长は、毎朝、病室から病室へと患者达を一人一人见舞うのである。

不久,护士长匆匆忙忙、表情亲切地走了进来。护士长就是这样每天早晨一个病房一个病房的逐个看望患者的。

「ゆうべはよくお休みになれましたか?」看护妇长は快活そうな声で寻ねた。

“您昨晚休息得好吗?”护士长用亲切的语调问道。 

病人は何も言わないで、素直にうなずいた。

节子什麼也没有说,老老实实地点著头。

* * *


こういう山のサナトリウムの生活などは、普通の人々がもう行き止まりだと信じているところから始まっているような、特殊な人间性をおのずから帯びてくるものだ。――私が自分の里にそういう见知らないような人间性をぼんやりと意识しはじめたのは、入院后间もなく私が院长に诊察室に呼ばれて行って、节子のレントゲンで撮られた疾患部の写真を见せられた时からだった。

这种山中疗养院之类的生活,本身带有一种特殊的人性,那是从一般人看来已经无路可走之处开始起步的。我模模糊糊地意识到,自己也拥有这种似乎很陌生的人性,是从刚住院不久就被院长叫去诊断室、给我看节子患部X光照片的时候开始的。

院长は私を窓ぎわに连れて行って、私にも见よいように、その写真の原板を日に透かせながら、一々それに说明を加えて行った。右の胸には数本の白々とした肋骨がくっきりと认められたが、左の胸にはそれらが殆んど何も见えない位、大きな、まるで暗い不思议な花のような、病灶ができていた。

院长把我带到窗边,仿佛我也得看似的,把照片的底板对著阳光,一一加以说明。右胸的几根白花花的肋骨清晰可辨,但左胸的肋骨几乎什麼都看不见,形成了一个大大的、宛如神秘黑花一样的病灶。

「思ったよりも病灶が拡がっているなあ。……こんなにひどくなってしまっているとは思わなかったね。……これじゃ、いま、病院中でも二番目ぐらいに重症かも知れんよ……」

“病灶比想像的还要大,没想到会变得这麼严重了……这样的话,恐怕是当下医院里第二严重的重症了……”

そんな院长の言叶が自分の耳の中でがあがあするような気がしながら、私はなんだか思考力を失ってしまった者みたいに、いましがた见て来たあの暗い不思议な花のような影像をそれらの言叶とは少しも関系がないもののように、それだけを鲜かに意识の阈に上らせながら、诊察室から帰って来た。自分とすれちがう白衣の看护妇だの、もうあちこちのバルコンで日光浴をしだしている裸体の患者达だの、病栋のざわめきだの、それから小鸟の啭りだのが、そういう私の前を何んの连络もなしに过ぎた。

我从诊断室回来,感觉著院长这番话在耳边絮绕,却不知为什麼像一个失去了思考能力的人一样,只是把那个刚刚看过的神秘黑花清晰的呈现於意识世界之上,仿佛它与那番话根本没有关系。无论是与自己擦肩而过的白衣护士,还是已经开始在四周的阳台上做日光浴的裸体患者,病房的嘈杂,还有鸟儿的鸣叫,都在我前面没有任何关联地经过。

私はとうとう一番はずれの病栋にはいり、私达の病室のある二阶へ通じる阶段を升ろうとして机械的に足を弛めた瞬间、その阶段の一つ手前にある病室の中から、异様な、ついぞそんなのはまだ闻いたこともないような気味のわるい空咳が続けさまに泄れて来るのを耳にした。

我终於走进了最边上的住院楼,在即将踏上通往我们病房所在的二楼的楼梯而机械性地放松腿部的瞬间,我听见从紧靠楼梯的一间病房里,连续不断传来乾咳声,这种声音是异样的、从未听过的,也是让人心里极不舒服的。

「おや、こんなところにも患者がいたのかなあ」と思いながら、私はそのドアについている No.17 という数字を、ただぼんやりと见つめた。

“哦。这种地方也有患者。”我只是这样想著,漠然地注视著那门上钉著的NO.17的数字。

* * *


こうして私达のすこし风変りな爱の生活が始まった。
就这样,我们风格略异的爱情生活开始了。

节子は入院以来、安静を命じられて、ずっと寝ついたきりだった。そのために、気分の好いときはつとめて起きるようにしていた入院前の彼女に比べると、かえって病人らしく见えたが、别に病気そのものは悪化したとも思えなかった。医者达もまた直ぐ快愈する患者として彼女をいつも取り扱っているように见えた。「こうして病気を生捕りにしてしまうのだ」と院长などは冗谈でも言うように言ったりした。

节子住院以来就被要求静养,一直卧床不起。为此,跟住院之前相比,现在看起来,她反而更像病人了——以前她还能够在心情好的时候尽力起床的。但是病情本身并没有觉得有什麼特别的恶化。在外表上,医生们也总是把她当作马上就痊愈的患者来对待。院长等人也常常开玩笑似的说:“这样下去,就能生擒病魔。”

季节はその间に、いままで少し遅れ気味だったのを取り戻すように、急速に进み出していた。春と夏とが殆んど同时に押し寄せて来たかのようだった。毎朝のように、莺や闲古鸟の啭りが私达を眼ざませた。そして殆んど一日中、周囲の林の新绿がサナトリウムを四方から袭いかかって、病室の中まですっかり爽やかに色づかせていた。それらの日々、朝のうちに山々から涌いて出て行った白い云までも、夕方には再び元の山々へ立ち戻って来るかと见えた。

在这期间,季节突然快速转移,仿佛要夺回前些时日略显迟缓的节奏一般。春天和夏天好像要同时到来似的。每天早晨,黄莺和布谷鸟的啼鸣把我们唤醒。而后的一天之内,周围林子中的新绿从四面八方向疗养院袭来,连病房里都被彻底地涂上了清爽的色彩。在那些日子里,似乎就是连早晨从山中涌出并飘开去的白云,也在傍晚重又返回原来的群山之中。

私は、私达が共にした最初の日々、私が节子の枕もとに殆んど附ききりで过したそれらの日々のことを思い浮べようとすると、それらの日々が互に似ているために、その魅力はなくはない単一さのために、殆んどどれが后だか先きだか见分けがつかなくなるような気がする。

我每次想起我们最初在一起的那些日子,每次想起我在节子枕畔几乎形影相随的这些日子,就会因为这些时光的相似,由於那魅力的不可磨灭的单纯,而发现它们变得几乎无法分清孰先孰后。

 と言うよりも、私达はそれらの似たような日々を缲り返しているうちに、いつか全く时间というものからも抜け出してしまっていたような気さえする位だ。そして、そういう时间から抜け出したような日々にあっては、私达の日常生活のどんな些细なものまで、その一つ一つがいままでとは全然异った魅力を持ち出すのだ。私の身辺にあるこの微温い、好い匂いのする存在、その少し早い呼吸、私の手をとっているそのしなやかな手、その微笑、それからまたときどき取り交わす平凡な会话、――そう云ったものを若し取り除いてしまうとしたら、あとには何も残らないような単一な日々だけれども、――我々の人生なんぞというものは要素的には実はこれだけなのだ、そして、こんなささやかなものだけで私达がこれほどまで満足していられるのは、ただ私がそれをこの女と共にしているからなのだ、と云うことを私は确信していられた。

我甚至感到,与其这样说,不如说我们在反复重复著这些相似的日子中,不知何时起,已经不知不觉地从时间里跳了出来。於是,有了那些摆脱时间的日子,使得我们日常生活不管多麼琐碎的细节,都一一具备了迄今为止完全不同的魅力。在我身边散著微温、发著芳香的存在,她那轻快的呼吸,她那时刻牵著我手的柔柔的手,那微笑,以及那时时发生的平凡对谈——即使是这些日子,单纯得除去了这些便一无所有,但是,我们所谓的人生,在元素上不过尔尔。而仅如此之微少,却使我们这般的满足。我坚信,只是因为这是我和此女子在共同完成它。

それらの日々に於ける唯一の出来事と云えば、彼女がときおり热を出すこと位だった。それは彼女の体をじりじり衰えさせて行くものにちがいなかった。が、私达はそういう日は、いつもと少しも変らない日课の魅力を、もっと细心に、もっと缓慢に、あたかも禁断の果実の味をこっそり偸みでもするように味わおうと试みたので、私达のいくぶん死の味のする生の幸福はその时は一そう完全に保たれた程だった。

这些日子里发生的唯一事件,就是她时而发烧的事了。无疑,这会一步步地使她身体衰弱。但是,我们在那些日子里,会更加细心地、更加缓慢地、宛如偷偷地品尝禁果味道一般,去尝试品味那些与往常毫无差异、按部就班的魅力。所以,我们那带有几分死亡味道的生之幸福,在那些时候愈发地得到了完整的保护。

そんな或る夕暮、私はバルコンから、そして节子はベッドの上から、同じように、向うの山の背に入って间もない夕日を受けて、そのあたりの山だの丘だの松林だの山畑だのが、半ば鲜かな茜色を帯びながら、半ばまだ不确かなような鼠色に徐々に侵され出しているのを、うっとりとして眺めていた。ときどき思い出したようにその森の上へ小鸟たちが抛物线を描いて飞び上った。――私は、このような初夏の夕暮がほんの一瞬时生じさせている一帯の景色は、すべてはいつも见驯れた道具立てながら、恐らく今を措いてはこれほどの溢れるような幸福の感じをもって私达自身にすら眺め得られないだろうことを考えていた。そしてずっと后になって、いつかこの美しい夕暮が私の心に苏って来るようなことがあったら、私はこれに私达の幸福そのものの完全な絵を见出すだろうと梦みていた。

一天傍晚,我从阳台,节子从床上,出神地眺望著对面的山峰、丘陵、松林,田野,在刚刚进入山背的夕阳之下,一半带著鲜艳的深红,一半被不断变化著的暗灰慢慢侵蚀著。小鸟时而突然飞起,在那片森林之上画抛物线。我想,这样的初夏黄昏,短短一瞬间诞生的那一带景色,都是平时司空见惯的道具。如果不是到了如今这一刻,它们甚至就无法给我们自身带来如此充沛欲溢的幸福感了。於是我幻想著,等到了遥远的将来,如果在什麼时候,这个美丽的黄昏重归於我心中,我们就会发现我们幸福本身的完美画面。

「何をそんなに考えているの?」私の背后から节子がとうとう口を切った。
“你在想啥呢?”节子在我背后终於开了口。

「私达がずっと后になってね、今の私达の生活を思い出すようなことがあったら、それがどんなに美しいだろうと思っていたんだ」
“我在想,到了很久很久以后,如果我们能回忆起我们现在的生活,那该是多麼的美好。”

「本当にそうかも知れないわね」彼女はそう私に同意するのがさも愉しいかのように応じた。
“应该会的!”她是这样赞同著我的看法,对应著她实实在在的快乐。

それからまた私达はしばらく无言のまま、再び同じ风景に见入っていた。が、そのうちに私は不意になんだか、こうやってうっとりとそれに见入っているのが自分であるような自分でないような、変に茫漠とした、取りとめのない、そしてそれが何んとなく苦しいような感じさえして来た。そのとき私は自分の背后で深い息のようなものを闻いたような気がした。が、それがまた自分のだったような気もされた。私はそれを确かめでもするように、彼女の方を振り向いた。

事后,我们又久久地保持著沉默,凝视著风景。可是,我不知道,为什麼在不经意间感到这样出神地眺望著景色的自己,不是本来的自己,甚至有一种异样的迷茫,没有边际、而又有几分苦楚的感觉。这时,我感觉到了好像自己的背后传来了一声深深的叹息,却又感觉这叹息是属於自己的。我转向她,似乎要确认这声叹息。

「そんなにいまの……」そういう私をじっと见返しながら、彼女はすこし嗄れた声で言いかけた。
“你对现在的状况竟然那麼……”她一动不动地回视著我,用略带沙哑的声音小声说道。

が、それを言いかけたなり、すこし踌躇っていたようだったが、それから急にいままでとは异った打弃るような调子で、「そんなにいつまでも生きて居られたらいいわね」と言い足した。
可是她话音刚落,就显得迟疑起来,然后突然用与刚才不一样的语调,努力扭转印象似的补充道:“要是永远都这样活著,那该多好啊!”

「又、そんなことを!」 私はいかにも焦れったいように小さく叫んだ。
“怎麼又说这种话!?”我好像真的生气似的小声喊道。

「御免なさい」彼女はそう短く答えながら私から颜をそむけた。
“对不起。”她这样简短地回答著,把脸从我这里转开去。

いましがたまでの何か自分にも诀の分らないような気分が私にはだんだん一种の苛ら立たしさに変り出したように见えた。私はそれからもう一度山の方へ目をやったが、その时は既にもうその风景の上に一瞬间生じていた异様な美しさは消え失せていた。
一种直到刚才自己也不知缘由的情绪,似乎正在一点一点的变成一种焦躁。於是,我再一次把目光投向山那边,但这时在那风景之上,那瞬间产生的异常的美已经消失了。

その晩、私が隣りの侧室へ寝に行こうとした时、彼女は私を呼び止めた。
当晚,在我要去隔壁侧室睡觉的时候,她叫住了我。

「さっきは御免なさいね」
“刚才真的很对不起!”

「もういいんだよ」
“好啦,好啦。”
「私ね、あのとき他のことを言おうとしていたんだけれど……つい、あんなことを言ってしまったの」
“我呀,当时是想说别的事情的。可是……一不小心,说了那番话。”

「じゃ、あのとき何を言おうとしたんだい?」
“那,当时你想说的是什麼?”

「……あなたはいつか自然なんぞが本当に美しいと思えるのは死んで行こうとする者の眼にだけだと仰しゃったことがあるでしょう。……私、あのときね、それを思い出したの。何んだかあのときの美しさがそんな风に思われて」そう言いながら、彼女は私の颜を何か诉えたいように见つめた。

“……你不是曾经说过吗?只有在以为将要死去的人眼里,才会认为自然真美。……我,当时呢,就想起了你这句话。不知道为什麼,我把当时的美景想成这样……”这样说著,她凝望著我的脸,目光如诉。

その言叶に胸を冲かれでもしたように、私は思わず目を伏せた。そのとき、突然、私の头の中を一つの思想がよぎった。そしてさっきから私を苛ら苛らさせていた、何か不确かなような気分が、渐く私の里ではっきりとしたものになり出した。……

我不由自主地伏下视线,仿佛心头被这番话撞击了一样,这时,我的脑海里突然闪现一个念头。於是,从刚才就令我焦躁、含混不清的心情,终於在我心中渐渐清晰起来……

「そうだ、おれはどうしてそいつに気がつかなかったのだろう? あのとき自然なんぞをあんなに美しいと思ったのはおれじゃないのだ。それはおれ达だったのだ。まあ言ってみれば、节子の魂がおれの眼を通して、そしてただおれの流仪で、梦みていただけなのだ。……それだのに、节子が自分の最后の瞬间のことを梦みているとも知らないで、おれはおれで、胜手におれ达の长生きした时のことなんぞ考えていたなんて……」

是啊,我怎麼没有注意到她呢?那个时候,认为自然那麼美的,不是我,而是我们。噢,换言之,那只是节子的灵魂通过我的眼睛,甚至只是按照我的惯用方式去幻想。……尽管如此,节子也不知道自己在幻想著自己最后的瞬间,我自己竟然在随意地思考著我们长寿时的事情。……

いつしかそんな考えをとつおいつし出していた私が、渐っと目を上げるまで、彼女はさっきと同じように私をじっと见つめていた。私はその目を避けるような恰好をしながら、彼女の上に跼みかけて、その额にそっと接吻した。私は心から羞かしかった。……

她像刚才一样,一动不动地凝视著这样不知不觉地思来想去的我,直到我抬起眼来。我一边避开那眼神,一边在她的上方弯下身子,轻轻地吻了她的额头。我发自内心地感到羞愧。

* * *


とうとう真夏になった。それは平地でよりも、もっと猛烈な位であった。裏の雑木林では、何かが燃え出しでもしたかのように、蝉がひねもす啼き止まなかった。树脂のにおいさえ、开け放した窓から漂って来た。夕方になると、戸外で少しでも楽な呼吸をするために、バルコンまでベッドを引き出させる患者达が多かった。それらの患者达を见て、私达ははじめて、この顷俄かにサナトリウムの患者达の増え出したことを知った。しかし、私达は相かわらず谁にも构わずに二人だけの生活を続けていた。

终於,到了盛夏。天气却似乎比平地更加酷热。后面的杂木林里好像烧著了什麼东西一样,蝉整天不停地鸣唱。甚至那一直开著的窗户,也飘来了树脂的味道。到了傍晚,为了尽量获得在户外的轻松呼吸,很多患者把床拉出到阳台。看到这些患者,我们才发现这段日子里疗养院的患者骤然增加了。但是,我们依旧不管任何人,继续著这只有两个人的生活。

この顷、节子は暑さのためにすっかり食欲を失い、夜などもよく寝られないことが多いらしかった。私は、彼女の昼寝を守るために、前よりも一层、廊下の足音や、窓から飞びこんでくる蜂や虻などに気を配り出した。そして暑さのために思わず大きくなる私自身の呼吸にも気をもんだりした。

这些日子,由於炎热,节子完全没有了食欲,晚上也常常不能安睡。为了守护她的午睡,我比以往更留心走廊里的脚步声,还有从窗外飞进来的蜂虻之类。然后,对自己因为炎热而不自觉地变粗的呼吸,也时而担忧起来,生怕突然间生气起来。

そのように病人の枕元で、息をつめながら、彼女の眠っているのを见守っているのは、私にとっても一つの眠りに近いものだった。私は彼女が眠りながら呼吸を速くしたり弛くしたりする変化を苦しいほどはっきりと感じるのだった。私は彼女と心臓の鼓动をさえ共にした。ときどき軽い呼吸困难が彼女を袭うらしかった。そんな时、手をすこし痉挛させながら咽のところまで持って行ってそれを抑えるような手つきをする、――梦に魇われてでもいるのではないかと思って、私が起してやったものかどうかと踌躇っているうち、そんな苦しげな状态はやがて过ぎ、あとに弛缓状态がやって来る。そうすると、私も思わずほっとしながら、いま彼女の息づいている静かな呼吸に自分までが一种の快感さえ覚える。――そうして彼女が目を醒ますと、私はそっと彼女の髪に接吻をしてやる。彼女はまだ倦るそうな目つきで、私を见るのだった。

对我而言,这样地在节子的枕畔,屏住呼吸守护著她的安睡,也是一种近乎睡眠的状态。我深切的感受到她安睡中呼吸快慢的变化,我的心脏甚至在和她一起跳动。轻度的呼吸困难,似乎不时袭击她。这个时候,她的手微微的颤抖著抬到了喉咙附近,做得仿佛要抑制它的手势——就在我怀疑她是不是在梦中遭遇梦魇,而犹豫著该不该把她唤醒时,这种痛苦状态转眼过去了,松弛状态随后来临。於是,我不由自主地松了一口气,甚至自己都对她现在喘息著的平静呼吸感到了一种快意。她一醒来,我就轻轻地吻著她的头发,她却用倦意尤存的眼神看著我。

「あなた、そこにいたの?」
“你在这里?”
「ああ、仆もここで少しうつらうつらしていたんだ」
“啊,我也在这里迷迷糊糊了好一阵子呢。”

そんな晩など、自分もいつまでも寝つかれずにいるようなことがあると、私はそれが癖にでもなったように、自分でも知らずに、手を咽に近づけながらそれを抑えるような手つきを真似たりしている。そしてそれに気がついたあとで、それからやっと私は本当の呼吸困难を感じたりする。が、それは私にはむしろ快いものでさえあった。

在那些夜晚,当自己怎麼也睡不著的时候,我像成癖了一样,时而无意识地把手靠近喉咙,模仿著试图抑制它的手势。而当自己发觉了之后,才终於感到自己真的呼吸困难。但是那对於我而言,甚至反而是令人愉悦的。

「この顷なんだかお颜色が悪いようよ」或る日、彼女はいつもよりしげしげと见ながら言うのだった。「どうかなすったのじゃない?」
“这阵子,怎麼你的脸色好像很难看?”一天,她比平日里更加深切地看著我说。“究竟发生了什麼事?”

「なんでもないよ」そう言われるのは私の気に入った。「仆はいつだってこうじゃないか?」
“啥事都没有。”我很高兴地说,“我不总是这样吗?”

「あんまり病人の侧にばかりいないで、少しは散歩くらいなすっていらっしゃらない?」“拜托,不要总是呆在我这病人身边,能不能稍微出去走走?”

「この暑いのに、散歩なんか出来るもんか。……夜は夜で、真っ暗だしさ。……それに毎日、病院の中をずいぶん往ったり来たりしているんだからなあ」

“这麼热,哪还能出得去?这里一入夜就黑成一片……而且,我每天在医院里也没少跑来跑去啊。”

私はそんな会话をそれ以上にすすめないために、毎日廊下などで出逢ったりする、他の患者达の话を持ち出すのだった。よくバルコンの縁に一块りになりながら、空を竞马场に、动いている云をいろいろそれに似た动物に见立て合ったりしている年少の患者达のことや、いつも附添看护妇の腕にすがって、あてもなしに廊下を往复している、ひどい神経衰弱の、无気味なくらい背の高い患者のことなどを话して闻かせたりした。しかし、私はまだ一度もその颜は见たことがないが、いつもその部屋の前を通る度ごとに、気味のわるい、なんだかぞっとするような咳を耳にする例の第十七号室の患者のことだけは、つとめて避けるようにしていた。恐らくそれがこのサナトリウム中で、一番重症の患者なのだろうと思いながら。……

为了不让这样的交谈再进行下去,我常常会提起每天在走廊等处遇到的其他患者的事情:我和少年患者们,总是在阳台边上聚成一堆,把天空比作赛马场、把流云比作各种各样形态相像的动物;我总是扶著随同护士的手臂漫无目的地走来走去;我遇到过一个有著严重神经衰弱、个子高的令人生畏的患者……这些事情,我都说给她听。但是,只有那个我一次也没有见过、每次从那房间前面经过时都会从心里感到不舒服、听到毛骨悚然的咳声的17号病房患者的事情,我都极力地避开了。我想大概那就是这个疗养院中最严重的患者吧……


 八月も渐く末近くなったのに、まだずっと寝苦しいような晩が続いていた。そんな或る晩、私达がなかなか寝つかれずにいると、(もうとっくに就眠时间の九时は过ぎていた。……)ずっと向うの下の病栋が何んとなく騒々しくなり出した。それにときどき廊下を小走りにして行くような足音や、抑えつけたような看护妇の小さな叫びや、器具の锐くぶつかる音がまじった。私はしばらく不安そうに耳を倾けていた。それがやっと镇まったかと思うと、それとそっくりな沈黙のざわめきが、殆ど同时に、あっちの病栋にもこっちの病栋にも起り出した、そしてしまいには私达のすぐ下の方からも闻えて来た。

终於到了八月末,但晚上还是一直难以安睡。一个这样的夜晚,我们怎麼也睡不著(已经早就过了就寝时间的九点钟……)。远处对面下边的病房不知道为什麼突然骚动起来。而且,混杂著不时小跑通过走廊的脚步声、护士压低了的喊叫声、器具碰撞的尖锐响声。我不安地倾听了许久。刚以为那骚动终於沉寂下来,却在各个住院楼里几乎同时传来了几句相似的、沉默中的嘈杂声,而后最终在我们的最下面也传来了嘈杂声。

私は、今、サナトリウムの中を岚のように暴れ廻っているものの何んであるかぐらいは知っていた。私はその间に何度も耳をそば立てては、さっきからあかりは消してあるものの、まだ同じように寝つかれずにいるらしい隣室の病人の様子を窥った。病人は寝返りさえ打たずに、じっとしているらしかった。私も息苦しいほどじっとしながら、そんな岚がひとりでに衰えて来るのを待ち続けていた。

我知道现在疗养院里暴风雨般的到处肆虐的东西大体上是怎麼回事了。在这期间,我不止一次地竖起耳朵,窥探著刚才就关了灯但似乎同样不能入睡的隔壁节子的动静。节子好像连一个翻身都没有,老老实实地呆著,我也近乎窒息地静静呆著,继续等待那风暴自己平息下来。

真夜中になってからやっとそれが衰え出すように见えたので、私は思わずほっとしながら少し微睡みかけたが、突然、隣室で病人がそれまで无理に抑えつけていたような神経的な咳を二つ三つ强くしたので、ふいと目を覚ました。そのまますぐその咳は止まったようだったが、私はどうも気になってならなかったので、そっと隣室にはいって行った。真っ暗な中に、病人は一人で怯えてでもいたように、大きく目を见ひらきながら、私の方を见ていた。私は何も言わずに、その侧に近づいた。

到了半夜,那风暴似乎终於平息下来。我不由自主地松了一口气。刚刚打了一个盹儿,却突然由於隔壁节子一直努力压抑著几声强烈的神经性咳嗽而醒来。那咳嗽声似乎马上就停下来了。但我却无论如何也放心不下,就悄悄地走进隔壁。漆黑之中,节子独自恐惧地睁大著眼睛,看著我。我什麼也没说,走近她身旁。

「まだ大丈夫よ」彼女はつとめて微笑をしながら、私に闻えるか闻えない位の低声で言った。私は黙ったまま、ベッドの縁に腰をかけた。

“没关系的。”她努力微笑著,用介乎我听见和听不见的低低的声音说。我依然沉默,坐到床边。

「そこにいて顶戴」病人はいつもに似ず、気弱そうに、私にそう言った。私达はそうしたまままんじりともしないでその夜を明かした。

“请你留在这里。”节子异乎平常地胆怯地对我说道。我们就这样,一个瞌睡也没打,熬到天明。

そんなことがあってから、二三日すると、急に夏が衰え出した。

这种事情发生后不到两三天,夏天就匆匆地败落了。


* * *


九月になると、すこし荒れ模様の雨が何度となく降ったり止んだりしていたが、そのうちにそれは殆んど小止みなしに降り続き出した。それは木の叶を黄ばませるより先きに、それを腐らせるかと见えた。さしものサナトリウムの部屋部屋も、毎日窓を闭め切って、薄暗いほどだった。风がときどき戸をばたつかせた。そして裏の雑木林から、単调な、重くるしい音を引きもぎった。风のない日は、私达は终日、雨が屋根づたいにバルコンの上に落ちるのを闻いていた。そんな雨が渐っと雾に似だした或る早朝、私は窓から、バルコンの面している细长い中庭がいくぶん薄明くなって来たようなのをぼんやりと见おろしていた。その时、中庭の向うの方から、一人の看护妇が、そんな雾のような雨の中をそこここに咲き乱れている野菊やコスモスを手あたり次第に采りながら、こっちへ向って近づいて来るのが见えた。私はそれがあの第十七号室の附添看护妇であることを认めた。

到了九月,近乎暴雨的大雨下了又停、停了又下,随后又几乎不停地连续下了起来,仿佛要在催黄树叶前先让他们烂掉。连疗养院的各个房间都每天关著窗户,一片昏暗。而从背后的杂木林里,发出了单调、沉重的声音。在没有风的日子里,我们终日听著雨滴沿著屋顶落到阳台上。在一个早晨里,这雨终於开始变得像雾一样的了。我透过窗户,茫然地俯视著阳台对面狭长的庭院。庭院渐渐地明亮了起来。这时,我看见,从院落对面,一个护士在这如雾的细雨中,一边随手采摘到处盛开的野菊和雏菊,一边向这边走来。我认得她是那个17号病房的随同护士。

「ああ、あのいつも不快な咳ばかり闻いていた患者が死んだのかも知れないなあ」ふとそんなことを思いながら、雨に濡れたまま何んだか兴奋したようになってまだ花を采っているその看护妇の姿を见つめているうちに、私は急に心臓がしめつけられるような気がしだした。「やっぱり此処で一番重かったのはあいつだったのかな? が、あいつがとうとう死んでしまったとすると、こんどは? ……ああ、あんなことを院长が言ってくれなければよかったんだに……」

“啊!那个总是咳得让人难受的病人,大概已经死了!”我猛然想到了这些。我注视著那护士的身影,她被雨打湿了却不知道为什麼还兴奋地摘著花儿。我感到心脏无意中猛地收缩了一下。“这医院里病得最严重的还是那个人吗?假如那个人真的死掉了,那麼下一个会是谁呢?……啊,要是院长不告诉我这些事情就好了。”

私はその看护妇が大きな花束を抱えたままバルコンの荫に隠れてしまってからも、うつけたように窓硝子に颜をくっつけていた。
那护士抱著大把花束消失在阳台底下之后,我仍然失神地把脸贴在窗玻璃上。

「何をそんなに见ていらっしゃるの?」ベッドから病人が私に问うた。
“在看啥呢?”节子从床上对我问道。

「こんな雨の中で、さっきから花を采っている看护妇がいるんだけれど、あれは谁だろうかしら?」
“刚才下雨了,有个护士却还在采花儿,她是谁呢?”

私はそう独り言のようにつぶやきながら、やっとその窓から离れた。
我这样自言自语的嘟囔著,终於离开了那扇窗户。

しかし、その日はとうとう一日中、私はなんだか病人の颜をまともに见られずにいた。何もかも见抜いていながら、わざと知らぬような様子をして、ときどき私の方をじっと病人が见ているような気さえされて、それが私を一层苦しめた。

而那一天我不知道为什麼,到底还是没有正面看节子的脸。我甚至觉得,节子已经看穿了一切,但故意装出不知道的样子,时常一动不动地看著我这边。这使我更加痛苦。

こんな风にお互に分たれない不安や恐怖を抱きはじめて、二人が二人で少しずつ别々にものを考え出すなんて云うことは、いけないことだと思い返しては、私は早くこんな出来事は忘れてしまおうと努めながら、又いつのまにやらその事ばかりを头に浮べていた。そしてしまいには、私达がこのサナトリウムに初めて着いた雪のふる晩に病人が见たという梦、はじめはそれを闻くまいとしながら遂に打ち负けて病人からそれを闻き出してしまったあの不吉な梦のことまで、いままでずっと忘れていたのに、ひょっくり思い浮べたりしていた。

反思到两个人就这样开始分别怀著不安和恐惧,一点点地开始各自思考不同的东西,那是绝对不行的。我努力去尽快忘记这件事,而与此同时,却又不自觉地尽想著这种事。结果,我甚至想起了那个下雪的晚上,我们最初抵达疗养院时,节子做的那个梦。最初我不想听,但是终於还是向节子打听了这个不可思议的梦。虽然迄今为止,我努力地去忘记这个梦,但现在却突然浮现在脑海里了。

――その不思议な梦の中で、病人は死骸になって棺の中に卧ていた。人々はその棺を担いながら、何処だか知らない野原を横切ったり、森の中へはいったりした。もう死んでいる彼女はしかし、棺の中から、すっかり冬枯れた野面や、黒い枞の木などをありありと见たり、その上をさびしく吹いて过ぎる风の音を耳に闻いたりしていた、……その梦から醒めてからも、彼女は自分の耳がとても冷たくて、枞のざわめきがまだそれを充たしているのをまざまざと感じていた。……

——在那个不可思议的梦里,节子变成了尸体,躺在棺材之中。人们扛著那口棺材,时而横穿不知何处的原野,时而进入森林。她虽然已经死去,但在棺材中清清楚楚地看到了冬季萧疏的地表,听到了地上寂寞吹过的风声。……从那个梦里醒来之后,她还清清楚楚地感觉到自己的耳朵特别的冷,枞树的嘈杂声响还充盈其中。……

そんな雾のような雨がなお数日降り続いているうちに、すでにもう他の季节になっていた。サナトリウムの中も、気がついて见ると、あれだけ多数になっていた患者达も一人去り二人去りして、そのあとにはこの冬をこちらで越さなければならないような重い患者达ばかりが取り残され、又、夏の前のような寂しさに変り出していた。第十七号室の患者の死がそれを急に目立たせた。

这种如雾的细雨又连续下了几天。不知不觉中,季节已经转换。疗养院中也是,忽然发觉那麼多的患者也一个接一个地离开,只剩下必须在这里度过冬天的重患者。疗养院也变回了夏天的沉寂。第17号病房患者的死,一下子变得引人注目了。

九月の末の或る朝、私が廊下の北侧の窓から何気なしに裏の雑木林の方へ目をやって见ると、その雾ぶかい林の中にいつになく人が出たり入ったりしているのが异様に感じられた。看护妇达に讯いて见ても何も知らないような様子をしていた。それっきり私もつい忘れていたが、翌日もまた、早朝から二三人の人夫が来て、その丘の縁にある栗の木らしいものを伐り倒しはじめているのが雾の中に见えたり隠れたりしていた。

九月末的一个早晨,我无意间从走廊的北侧窗户,朝背后的杂木林的方向看去,感到有些异样。浓雾下的树林里,有人出出入入,这是平常所没有的。我问护士们,他们也是一脸茫然的样子。以后,我也不知不觉地忘却了。但是第二天还是如此,从早晨开始就来两三个人,在雾中时隐时现地砍伐著山丘边上,好像是栗树的东西。

その日、私は患者达がまだ谁も知らずにいるらしいその前日の出来事を、ふとしたことから闻き知った。それはなんでも、例の気味のわるい神経衰弱の患者がその林の中で缢死していたと云う话だった。そう云えば、どうかすると日に何度も见かけた、あの附添看护妇の腕にすがって廊下を往ったり来たりしていた大きな男が、昨日から急に姿を消してしまっていることに気がついた。

那天,我偶然从患者们口中,打听到了前几天还不为人知的事情。据说是那个感觉不舒服的、神经衰弱的患者,在那片林子里上吊死了。这样一说我才发觉,那个扶著随同护士在走廊里走来走去的大个子男人,那个每天我都看见几次的人,他从昨天开始突然消失了。

「あの男の番だったのか……」
“原来轮到那个人了……”

第十七号室の患者が死んでからというものすっかり神経质になっていた私は、それからまだ一周间と立たないうちに引き続いて起ったそんな思いがけない死のために、思わずほっとしたような気持になった。そしてそれは、そんな阴惨な死から当然私が受けたにちがいない気味悪さすら、私にはそのために殆んど感ぜられずにしまったと云っていいほどであった。

自从因为17号病房患者死去而变得神经质的我,由於不到一周之内就发生了出乎预料的死亡,我不由得松了一口气。甚至可以说,就连我必将理所当然地从这种悲惨的死中感受到的不安的心情,也因此而几乎感觉不到了。

「こないだ死んだ奴の次ぎ位に悪いと言われていたって、何も死ぬと决まっているわけのものじゃないんだからなあ」私はそう気軽そうに自分に向って言って闻かせたりした。

“虽然说她的病情仅次於前一阵子死去那个的家伙,但也不是什麼都注定要死的啊。”我这样轻松地对自己说。

裏の林の中の栗の木が二三本ばかり伐り取られて、何んだか间の抜けたようになってしまった迹は、今度はその丘の縁を、引きつづき人夫达が切り崩し出し、そこからすこし急な倾斜で下がっている病栋の北侧に沿った少しばかりの空地にその土を运んでは、そこいら一帯を缓やかななぞえにしはじめていた。人はそこを花坛に変える仕事に取りかかっているのだ。

背后树林里的栗树,只被伐掉了两三棵,那块伐木 “遗址”的中间,被无缘无故地弄走了。院工们把那山丘的边缘挖塌,把土运到从那里向下、坡面略陡的住院楼北侧边上的些许空地,使那一带变成平缓一些的斜坡。人们正在把那里改成花坛。


* * *


私は看护妇から渡された一束の手纸の中から、その一つを节子に渡した。彼女はベッドに寝たままそれを受取ると、急に少女らしく目を赫かせながら、それを読み出した。

我从护士送来的一堆信中,拿出一封交给节子。她依旧躺在床上,接到信后,眼里发出少女的光芒,开始读了起来。

「あら、お父様がいらっしゃるんですって」
“哎呀!爸爸说他要来。”

旅行中の父は、その帰途を利用して近いうちにサナトリウムへ立ち寄るということを书いて寄こしたのだった。

正在旅行的节子父亲在信里写道:“近几天就回家顺便到疗养院来。”他就这样把信邮来了。

それは或る十月のよく晴れた、しかし风のすこし强い日だった。近顷、寝たきりだったので食欲が衰え、やや痩せの目立つようになった节子は、その日からつとめて食事をし、ときどきベッドの上に起きていたり、腰かけたりしだした。彼女はまたときどき思い出し笑いのようなものを颜の上に漂わせた。私はそれに彼女がいつも父の前でのみ浮べる少女らしい微笑の下描きのようなものを认めた。私はそういう彼女のするがままにさせていた。

那一天是十月里的一个晴朗、但是风比较大的日子。近几天,节子由於一直卧床,食欲消退,明显消瘦了一些。从这一天开始,她尽量地吃饭,时而在床上起来,时而坐一会儿。她还时常在脸上浮现出回忆带来的甜蜜微笑。我认为,这少女般的微笑,是她所做出的预演,为了快点见到曾经总伴在自己身边的父亲。我没有打扰这种状态下她所做的一切。

それから数日立った或る午后、彼女の父はやって来た。
又过了几天。在一个下午,她的父亲终於来了。

彼はいくぶん前よりか颜にも老を见せていたが、それよりももっと目立つほど背中を屈めるようにしていた。それが何んとはなしに病院の空気を彼が恐れでもしているような様子に见せた。そうして病室へはいるなり、彼はいつも私の坐りつけている病人の枕元に腰を下ろした。ここ数日、すこし身体を动かし过ぎたせいか、昨日の夕方いくらか热を出し、医者の云いつけで、彼女はその期待も空しく、朝からずっと安静を命じられていた。

他脸上看上去比过去老了几分,而他脊背的弯曲更加醒目。这不禁让我觉得,他对医院的氛围有些恐惧。就这样,他一进到病房,就坐在我平常坐著的节子的枕畔。或许是因为这几天身体活动得有些过度,节子昨天傍晚有些发烧,按照医嘱,尽管她内心十分期待,也不得不遵从命令从早晨起静养。

殆んどもう病人は愈りかけているものと思い込んでいたらしいのに、まだそうして寝たきりでいるのを见て、父はすこし不安そうな様子だった。そしてその原因を调べでもするかのように、病室の中を仔细に见廻したり、看护妇达の一々の动作を见守ったり、それからバルコンにまで出て行って见たりしていたが、それらはいずれも彼を満足させたらしかった。そのうちに病人がだんだん兴奋よりも热のせいで頬を蔷薇色にさせ出したのを见ると、「しかし颜色はとてもいい」と、娘が何処か良くなっていることを自分自身に纳得させたいかのように、そればかり缲り返していた。

父亲似乎确信节子几乎要痊愈了,而看到她还是那样只是躺著,便显出有些不安的样子。於是,就像要考察一下其中缘由一样,父亲仔细地环视了整个病房,守望著护士们的每一个动作,还到阳台上看了又看,而这一切似乎都能令他满意。其间,父亲看到节子的脸颊渐渐的变红——其实是因为发烧,而并非缘於兴奋,就不断的重复著说这麼一句话:“可是呢,脸色还是非常好的。”仿佛要借此让自己相信女儿有所好转。

私はそれから用事を口実にして病室を出て行き、彼等を二人きりにさせて置いた。やがてしばらくしてから、再びはいって行って见ると、病人はベッドの上に起き直っていた。そして挂布の上に、父のもってきた菓子函や他の纸包を一ぱいに拡げていた。それは少女时代彼女の好きだった、そして今でも好きだと父の思っているようなものばかりらしかった。私を见ると、彼女はまるで悪戯を见つけられた少女のように、颜を赧くしながら、それを片づけ、すぐ横になった。

之后,我藉口有事离开病房,只留下他们两个人。过了一段时间之后,我再走进病房一看,节子又在病床上坐了起来。而盖著的床单上,满满地铺著父亲带来的点心盒子和其他的纸包。那些都是她少女时候喜欢、而父亲认为她如今依然喜欢的东西。她一看到我,就像一个被发现做了恶作剧的女孩子一样,红著脸庞,收拾起东西,马上就躺下了。

私はいくぶん気づまりになりながら、二人からすこし离れて、窓ぎわの椅子に腰かけた。二人は、私のために中断されたらしい话の続きを、さっきよりも低声で、続け出した。それは私の知らない驯染みの人々や事柄に関するものが多かった。そのうちの或る物は、彼女に、私の知り得ないような小さな感动をさえ与えているらしかった。

我变得有几分拘束起来,在距离两人稍远一些的窗边的椅子上坐下。两个人接著刚才好像是被我打断了的话头,用比刚才更低的声音,继续说了起来。那些人和事,大多数是我陌生的、而他们所熟知的,好像其中的某件事,甚至给了她我所不能理解的小小感动。 

私は二人のさも愉しげな対话を何かそういう絵でも见ているかのように、见较べていた。そしてそんな会话の间に父に示す彼女の表情や抑扬のうちに、何か非常に少女らしい辉きが苏るのを私は认めた。そしてそんな彼女の子供らしい幸福の様子が、私に、私の知らない彼女の少女时代のことを梦みさせていた。……

我像观赏一幅画一样,用心观察著两个人这著实愉快的交谈。於是,我发现,在交谈中她对父亲显示出的表情和语调顿挫之中,一种极其纯真的少女光彩重又出现。而她这种孩子般的幸福模样,让我想起她不为我所知的少女时代。……

ちょっとの间、私达が二人きりになった时、私は彼女に近づいて、揶揄うように耳打ちした。「お前は今日はなんだか见知らない蔷薇色の少女みたいだよ」

有一段时间,只剩下我们两个人的时候,我靠近她,开玩笑似地耳语说:“你今天怎麼这麼像一个我从来没见过的蔷薇色女孩啊!”

「知らないわ」彼女はまるで小娘のように颜を両手で隠した。

“我也不知道啊!”她完全像一个小女孩一样,用双手遮住了脸。

* * *


绝対安静の日々が続いた。

绝对安静的日子还在继续。

病室の窓はすっかり黄色い日覆を卸され、中は薄暗くされていた。看护妇达も足を爪立てて歩いた。私は殆んど病人の枕元に附きっきりでいた。夜伽も一人で引き受けていた。ときどき病人は私の方を见て何か言い出しそうにした。私はそれを言わせないように、すぐ指を私の口にあてた。

病房的窗户全部被罩上黄色的遮阳板,房间里变得微暗。护士们也踮著脚尖走路。我几乎就拴在节子的枕前,连夜里的护理也独自承担了下来。节子时而看著我,似乎想说些什麼,而我马上把手指放在嘴上,不让她说。

そのような沈黙が、私达をそれぞれ各自の考えの里に引っ込ませていた。が、私达はただ相手が何を考えているのかを、痛いほどはっきりと感じ合っていた。そして私が、今度の出来事をあたかも自分のために病人が犠牲にしていてくれたものが、ただ目に见えるものに変っただけかのように思いつめている间、病人はまた病人で、これまで二人してあんなにも细心に细心にと育て上げてきたものを自分の軽はずみから一瞬に打ち壊してしまいでもしたように悔いているらしいのが、はっきりと私に感じられた。

这样的沉默,把我们拉进各自的思索之中。但是,我们都能互相非常痛切地感受到对方在想什麼。我沉思於这次的事情,完全是节子为我所做的牺牲,而只是变成了可以眼见的成果;与此同时,我清清楚楚地感受到节子,从她的角度,似乎在后悔,因为自己的轻率,而在一瞬间,打破了我们二人至今为止那麼细心而又细心地培育起来的成果。

そしてそういう自分の犠牲を犠牲ともしないで、自分の軽はずみなことばかりを责めているように见える病人のいじらしい気持が、私の心をしめつけていた。そういう犠牲をまで病人に当然の代偿のように払わせながら、それがいつ死の床になるかも知れぬようなベッドで、こうして病人と共に愉しむようにして味わっている生の快楽――それこそ私达を、この上なく幸福にさせてくれるものだと私达が信じているもの、――それは果して私达を本当に満足させ了せるものだろうか? 私达がいま私达の幸福だと思っているものは、私达がそれを信じているよりは、もっと束の间のもの、もっと気まぐれに近いようなものではないだろうか? ……

而节子这种不以自己的牺牲为牺牲,却只管责备自己轻率的感人之情,令我揪心。一边让节子像理所当然的代价一样,作出那样的牺牲;一边就这样,在那某时或将成为死的温床的病床上,和节子一起乐的品味这生的快乐——那正是我们坚信能够给我们带来无上幸福的东西——那到底能不能真正让我们彻底地满足呢?它除却我们的坚信,难道不更加是昙花一现的吗?不更加是近乎变化莫测的吗?

夜伽に疲れた私は、病人の微睡んでいる傍で、そんな考えをとつおいつしながら、この顷ともすれば私达の幸福が何物かに胁かされがちなのを、不安そうに感じていた。

夜里看护得累了,我在浅睡著的节子身旁,反反复复的思索这些问题。同时,我不安地感觉到,也许就在现在,我们的幸福已经在被经常性地受到了威胁。

その危机は、しかし、一周间ばかりで立ち退いた。
这场危机,却只过了一周就退去了。

或る朝、看护妇がやっと病室から日覆を取り除けて、窓の一部を开け放して行った。窓から射し込んで来る秋らしい日光をまぶしそうにしながら、「気持がいいわ」と病人はベッドの中から苏ったように言った。
一天早晨,护士终於从病房去除了遮阳板,打开了窗户,然后离开。感受著窗外射来的秋天阳光的炫目,节子在床上如获重生般地说道:“真舒服啊。”

彼女の枕元で新闻を拡げていた私は、人间に大きな冲动を与える出来事なんぞと云うものは却ってそれが过ぎ去った迹は何んだかまるで他所の事のように见えるものだなあと思いながら、そういう彼女の方をちらりと见やって、思わず揶揄するような调子で言った。

我在她的枕畔翻看著报纸,一边感叹:予人重击的事情,反而在消去的时候,无影无踪,竟如隔世;一边瞥了一眼如此这般的她,不禁用略带揶揄的语调说道:

「もうお父さんが来たって、あんなに兴奋しない方がいいよ」
“下次你爸爸来了,就不要这麼兴奋了。”

彼女は颜を心持ち赧らめながら、そんな私の揶揄を素直に受け入れた。
她微微涨红了脸,老老实实的接受了我的揶揄。

「こんどはお父様がいらっしたって知らん颜をしていてやるわ」
“下次爸爸再来,就装作啥都不知道的样子。”
「それがお前に出来るんならねえ……」
“那是最好不过的了……”

そんな风に冗谈でも言い合うように、私达はお互に相手の気持をいたわり合うようにしながら、一绪になって子供らしく、すべての责任を彼女の父に押しつけ合ったりした。

就这样,我们互相开玩笑一般地,一边用互相抚慰著对方的心情,一边一起孩子气的把所有的责任推在了她爸爸身上。

そうして私达は少しもわざとらしくなく、この一周间の出来事がほんの何かの间违いに过ぎなかったような、気軽な気分になりながら、いましがたまで私达を肉体的ばかりでなく、精神的にも袭いかかっているように见えた危机を、事もなげに切り抜け出していた。少くとも私达にはそう见えた。……

於是,我们的心情自然而然地轻松了起来,仿佛这一周内所发生的一切,只不过是某种失误。同时,若无其事地抛开了刚刚还看起来正在向我们的肉体乃至於精神袭来的危机。至少,在我们看来,无疑是这样的。

或る晩、私は彼女の侧で本を読んでいるうち、突然、それを闭じて、窓のところに行き、しばらく考え深そうに伫んでいた。それから又、彼女の傍に帰った。私は再び本を取り上げて、それを読み出した。

一天晚上,我正在她旁边读书。突然,我合上书,走到视窗,伫立著沉思了一会儿。然后,又回到她的身边。我再次拿起书,开始读了起来。

「どうしたの?」彼女は颜を上げながら私に问うた。
“怎麼了?她扬起脸向我问道。

「何んでもない」私は无造作にそう答えて、数秒时本の方に気をとられているような様子をしていたが、とうとう私は口を切った。
“没什麼。”我漫不经心的回答。我装作被书的内容所吸引住了,但过了几秒钟,终於开口说:

「こっちへ来てあんまり何もせずにしまったから、仆はこれから仕事でもしようかと考え出しているのさ」
“我到这里来以后,就什麼都没有做,所以我在想:是不是从现在开始,也要做点儿什麼?”

「そうよ、お仕事をなさらなければいけないわ。お父様もそれを心配なさっていたわ」彼女は真面目な颜つきをして返事をした。「私なんかのことばかり考えていないで……」

“是啊,工作是不能落下的!爸爸也在担心这件事呢。”她面色认真地说。“不要只想著我的事情。”

「いや、お前のことをもっともっと考えたいんだ……」私はそのとき咄嗟に头に浮んで来た或る小说の漠としたイデエをすぐその场で追い廻し出しながら、独り言のように言い続けた。
“不,你的事情是更加要想的。”我一边紧紧追寻著当时顷刻之间浮现在脑海里的一个小说的模糊概念,一边自言自语似地说:

「おれはお前のことを小说に书こうと思うのだよ。それより他のことは今のおれには考えられそうもないのだ。おれ达がこうしてお互に与え合っているこの幸福、――皆がもう行き止まりだと思っているところから始っているようなこの生の愉しさ、――そう云った谁も知らないような、おれ达だけのものを、おれはもっと确実なものに、もうすこし形をなしたものに置き换えたいのだ。分るだろう?」

“我是想,写一本关於你的小说。除此之外的其他事情,我一点儿也不打算去想。我是想,让我们这样互相给予的这种幸福,从这种大家都认为是终点的地方开始,感受活著的愉快……让这种不为人知的、只属於我们的东西,转化成更加实在的、接近成型的东西,明白吗?”

「分るわ」彼女は自分自身の考えでも逐うかのように私の考えを逐っていたらしく、それにすぐ応じた。が、それから口をすこし歪めるように笑いながら、“

明白。”她似乎在追著我的思维,像追著自己的思路一样,乾脆俐落地回应道。但随后却像对我有点居高临下似的略微歪著嘴笑著,补充说:

「私のことならどうでもお好きなようにお书きなさいな」と私を軽く遇うように言い足した。
“如果是我的事,请随心所欲地写吧。”

私はしかし、その言叶を率直に受取った。
我却坦然的接受了她的话。

「ああ、それはおれの好きなように书くともさ。……が、今度の奴はお前にもたんと助力して贳わなければならないのだよ」
“啊,我当然可以随心所欲地写啦……但是这回的东西,可是必须要得到你的鼎力相助才行的哦。”

「私にも出来ることなの?」
“我也可以吗?”

「ああ、お前にはね、おれの仕事の间、头から足のさきまで幸福になっていて贳いたいんだ。そうでないと……」
“诶,你嘛,就请你在我工作期间,从头到脚得幸福起来,否则的话……”

一人でぼんやりと考え事をしているのよりも、こうやって二人で一绪に考え合っているみたいな方が、余计自分の头が活溌に働くのを异様に感じながら、私はあとからあとからと涌いてくる思想に押されでもするかのように、病室の中をいつか往ったり来たりし出していた。

与其一个人在茫然地思考著,这种看似两个人共同在做的思考,反而更能使自己的思维灵活。我一边惊诧地感受著这差别,一边在病房中不断地踱著步,仿佛被源源不断喷涌而来的文思推动著一般。

「あんまり病人の侧にばかりいるから、元気がなくなるのよ。……すこしは散歩でもしていらっしゃらない?」

“总是在我这个病人身边呆著,就会没有精神的……你要不要稍微散散步什麼的?”

「うん、おれも仕事をするとなりあ」と私は目を赫かせながら、元気よく答えた。「うんと散歩もするよ」

“嗯!我也要工作了!”,我目光炯炯精神饱满地回答。“当然……也要好好地散步!”


* * *


私はその森を出た。大きな沢を隔てながら、向うの森を越して、八ヶ岳の山麓一帯が私の目の前に果てしなく展开していたが、そのずっと前方、殆んどその森とすれすれぐらいのところに、一つの狭い村とその倾いた耕作地とが横たわり、そして、その一部にいくつもの赤い屋根を翼さのように拡げたサナトリウムの建物が、ごく小さな姿になりながらしかし明了に认められた。

我走出了森林。绕过大泽,穿过对面的森林,八岳山麓就在我的眼前无限地延伸著。前方远处,几乎紧挨著森林边缘的地方,横卧著一个狭长的村庄,还有那片倾斜的耕地。而在其中的一角,疗养院的建筑将几脊红色的屋顶如鸟翼般展开。虽然形状已经变得很小,但还是清晰可辩。

私は早朝から、何処をどう歩いているのかも知らずに、足の向くまま、自分の考えにすっかり身を任せ切ったようになって、森から森へとさ迷いつづけていたのだったが、いま、そんな风に私の目のあたりに、秋の澄んだ空気が思いがけずに近よせているサナトリウムの小さな姿を、不意に视野に入れた刹那、私は急に何か自分に凭いていたものから醒めたような気持で、その建物の中で多数の病人达に取り囲まれながら、毎日毎日を何気なさそうに过している私达の生活の异様さを、はじめてそれから引き离して考え出した。そうしてさっきから自分の里に涌き立っている制作欲にそれからそれへと促されながら、私はそんな私达の奇妙な日ごと日ごとを一つの异常にパセティックな、しかも物静かな物语に置き换え出した。……「节子よ、これまで二人のものがこんな风に爱し合ったことがあろうとは思えない。いままでお前というものはいなかったのだもの。それから私というものも……」

我从早上漫无目的地信步而行,完全随著自己思考,从森林到森林地徘徊著。但是现在,秋天澄澈的天空出人意料地把疗养院的小小身影,拉近在我的眼前。当它不经意间进入我视野的一刹那间,我的心情突然就像从自己的迷幻中,梦醒了一样。我第一次从幻梦里跳出来,思考著我们在那建筑中、在许许多多病人的包围中,那一天天若无其事地度过著的生活的异样。於是,我在刚才就已在身体里涌动的创作欲望的催促下,把我们那些奇妙的一天又一天,转换成一个极其感人而又静寂的故事。“……节子啊,迄今为止,我没有想到两个人可以如此地相爱。而我又……”

私の梦想は、私达の上に起ったさまざまな事物の上を、或る时は迅速に过ぎ、或る时はじっと一ところに停滞し、いつまでもいつまでも踌躇っているように见えた。私は节子から远くに离れてはいたが、その间绝えず彼女に话しかけ、そして彼女の答えるのを闻いた。そういう私达についての物语は、生そのもののように、果てしがないように思われた。そうしてその物语はいつのまにかそれ自身の力でもって生きはじめ、私に构わず胜手に展开し出しながら、ともすれば一ところに停滞しがちな私を其処に取り残したまま、その物语自身があたかもそういう结果を欲しでもするかのように、病める女主人公の物悲しい死を作为しだしていた。――身の终りを予覚しながら、その衰えかかっている力を尽して、つとめて快活に、つとめて気高く生きようとしていた娘、――恋人の腕に抱かれながら、ただその残される者の悲しみを悲しみながら、自分はさも幸福そうに死んで行った娘、――そんな娘の影像が空に描いたようにはっきりと浮んでくる。……

我的冥想,从我们亲身经历的那些事情上一忽儿飞速滑过,一忽儿一动不动地停留在某一处,无休无止地彷徨著。这几天,我虽然远离了节子,但我不断地从心里对她倾诉,也听到了她的回答。我觉得,关於我们的故事,恰如生命一样,没有尽头。而那个故事,也在不知不觉之间,开始以它自身的力量生长,抛开我而随意地展开,往往把动不动就滞留在一处的我,留在原处。而故事自己,仿佛渴望那种结局一样,编造著病中女主角悲惨的死——姑娘被抱在恋人的臂弯中,只悲伤著生者的悲伤,而自己却真正幸福地死去——这姑娘的身影,就像画在空中一样,清晰的浮现出来。……

「男は自分达の爱を一层纯粋なものにしようと试みて、病身の娘を诱うようにして山のサナトリウムにはいって行くが、死が彼等を胁かすようになると、男はこうして彼等が得ようとしている幸福は、果してそれが完全に得られたにしても彼等自身を満足させ得るものかどうかを、次第に疑うようになる。――が、娘はその死苦のうちに最后まで自分を诚実に介抱してくれたことを男に感谢しながら、さも満足そうに死んで行く。そして男はそういう気高い死者に助けられながら、やっと自分达のささやかな幸福を信ずることが出来るようになる……」

“男子竭力想让他们的爱变得更加纯洁,劝说生病的姑娘到山里的疗养院。但是,当死亡开始威胁到他们的时候,男人於是渐渐地怀疑:他们想要得到的幸福——即使他们全都得到了,到底能不能让他们自身得到满足。——但是,姑娘在那死亡的痛苦之中,一边感谢男子真诚地看顾自己到最后,一边非常满足地死去。然后,男人一边帮助著这高尚的死者,一边终於开始相信,他们那淡淡的幸福。”

そんな物语の结末がまるで其処に私を待ち伏せてでもいたかのように见えた。そして突然、そんな死に濒した娘の影像が思いがけない烈しさで私を打った。私はあたかも梦から覚めたかのように何んともかとも言いようのない恐怖と羞耻とに袭われた。そしてそういう梦想を自分から振り払おうとでもするように、私は腰かけていた?の裸根から荒々しく立ち上った。

这样的故事结局,就像已经在等著我一样,清晰可见。於是,那濒死的姑娘的身影,以超乎想像的力,重击著我。我宛如从梦中惊醒一般,被难以名状恐怖和羞愧冲击著,我猛地从正坐著的山毛榉跟上站起,仿佛要把这种冥想,从自己身上赶走一般。

太阳はすでに高く升っていた。山や森や村や畑、――そうしたすべてのものは秋の穏かな日の中にいかにも安定したように浮んでいた。かなたに小さく见えるサナトリウムの建物の中でも、すべてのものは毎日の习惯を再び取り出しているのに违いなかった。そのうち不意に、それらの见知らぬ人々の间で、いつもの习惯から取残されたまま、一人でしょんぼりと私を待っている节子の寂しそうな姿を头に浮べると、私は急にそれが気になってたまらないように、急いで山径を下りはじめた。

太阳已经高高升起。大山、森林、村庄、田野——所有这一切,都在秋天的阳光下,呈现出一种莫名的平静。远处看起来很小的疗养院的建筑里,一切也都必定重复著每一天的习惯。不知不觉的,在那些陌生的人们中,那被遗忘在平日的习惯之外、而且一个人孤单地等待著我的节子——那寂寞的身影,忽然在我的脑海里浮现出来。我忽然担心不已,便匆匆忙忙地走下山路。

私は裏の林を抜けてサナトリウムに帰った。そしてバルコンを迂回しながら、一番はずれの病室に近づいて行った。私には少しも気がつかずに、节子は、ベッドの上で、いつもしているように髪の先きを手でいじりながら、いくぶん悲しげな目つきで空を见つめていた。私は窓硝子を指で叩こうとしたのをふと思い止まりながら、そういう彼女の姿をじっと见入った

。我穿过后面的森林,回到了疗养院。然后绕过阳台,走进了最边上的病房。节子丝毫没有发现我,一边像平常一样在病床上用手拨弄著发梢,一边带著几分悲伤的眼神注视著天空。我立刻放弃了用手指敲窗的念头,一动不动的地入神地看著她。

彼女は何かに胁かされているのを渐っと怺えているとでも云った様子で、それでいてそんな様子をしていることなどは恐らく彼女自身も気がついていないのだろうと思える位、ぼんやりしているらしかった。……私は心臓をしめつけられるような気がしながら、そんな见知らない彼女の姿を见つめていた。……と突然、彼女の颜が明るくなったようだった。彼女は颜をもたげて、微笑さえしだした。彼女は私を认めたのだった。

她的神态,好像是在极力忍耐某种威胁。而她自身也许没有意识到,自己这样的神态,茫然若失……我注视著她陌生的神态,感到心脏在收缩。……突然,她的表情开朗了起来,她的脸扬起,甚至开始现出微笑。原来,她发现了我。



私はバルコンからはいりながら、彼女の侧に近づいて行った。
我从阳台走进去,走近她的身旁。

「何を考えていたの?」“在想啥呢?”
「なんにも……」彼女はなんだか自分のでないような声で返事をした。“没……”
不知道为什麼,她回答的声音不像是她自己的。

私がそのまま何も言い出さずに、すこし気が郁いだように黙っていると、彼女は渐っといつもの自分に返ったような、亲密な声で、「何処へ行っていらしったの?随分长かったのね」と私に讯いた。
我就这样什麼也没有说,心情抑郁地沉默著。她好像终於回到了平常的自我,用亲密的声音向我说道:“去了哪里啊?这麼久的。”

「向うの方だ」私は无雑作にバルコンの真正面に见える远い森の方を指した。
“隔壁那里。”我随便地指了指阳台正对面远处的森林。

「まあ、あんなところまで行ったの?……お仕事は出来そう?」
“哦,去那里啊……工作得差不多了吧?”

「うん、まあ……」私はひどく无爱想に答えたきり、しばらくまた元のような无言に返っていたが、それから出し抜けに私は、「お前、いまのような生活に満足しているかい?」といくらか上ずったような声で讯いた。
“嗯嗯……”我极其冷淡的只回答了这些,许久又重归於原来的那种沉默。为了摆脱这种沉默,我用提高了一些的声调问道:“你对现在这种生活满意吗?”

 彼女はそんな突拍子もない质问にちょっとたじろいた様子をしていたが、それから私をじっと见つめ返して、いかにもそれを确信しているように颔きながら、「どうしてそんなことをお讯きになるの?」と不审しそうに问い返した。

她对这种不著边际的问题,略显迟疑。但随后便回头盯著我,一边非常坚信地点头,一边有些不解地发问:“为什麼要问这种问题?”

「おれは何んだかいまのような生活がおれの気まぐれなのじゃないかと思ったんだ。そんなものをいかにも大事なもののようにこうやってお前にも……」

“我总是觉得,现在的生活,是不是我做事不靠谱的后果?把事情看得太重,这麼一来,对你也……”

「そんなこと言っちゃ厌」彼女は急に私を遮った。「そんなことを仰しゃるのがあなたの気まぐれなの」
“不许说这种话!”她急忙打断我:“说这样的话,才是不靠谱呢!” 

けれども私はそんな言叶にはまだ満足しないような様子を见せていた。彼女はそういう私の沈んだ様子をしばらくは唯もじもじしながら见守っていたが、とうとう怺え切れなくなったとでも言うように言い出した。
但是,我还是表现出了对这些话并不满意的神态。她只是久久的、腼腆地看著我这消沉的样子。但终於,好像再也忍耐不住似的开口说:

「私が此処でもって、こんなに満足しているのが、あなたにはおわかりにならないの? どんなに体の悪いときでも、私は一度だって家へ帰りたいなんぞと思ったことはないわ。若しあなたが私の侧にいて下さらなかったら、私は本当にどうなっていたでしょう?……さっきだって、あなたがお留守の间、最初のうちはそれでもあなたのお帰りが遅ければ遅いほど、お帰りになったときの悦びが余计になるばかりだと思って、痩我慢していたんだけれど、――あなたがもうお帰りになると私の思い込んでいた时间をずうっと过ぎてもお帰りにならないので、しまいにはとても不安になって来たの。そうしたら、いつもあなたと一绪にいるこの部屋までがなんだか见知らない部屋のような気がしてきて、こわくなって部屋の中から飞び出したくなった位だったわ。……でも、それから渐っとあなたのいつか仰しゃったお言叶を考え出したら、すこうし気が落着いて来たの。あなたはいつか私にこう仰しゃったでしょう、――私达のいまの生活、ずっとあとになって思い出したらどんなに美しいだろうって……」

“我因为在这里,才感到了这样的满足。你难道不知道吗?无论在身体多麼不好的时候,我一次也没有想过回家。如果没有你在我的身边,我真的不知道我会怎麼样……就在刚才你走开的那一会儿,虽然最初还是硬撑著,只想著你回来得越晚,你回来的时候快乐就越大,但是——因为超过了我预想的时间,你还是很久没有回来,最后,我变得很不高兴。结果,就是这个平时总是有你在一起的房间,也不知道为什麼变得陌生了,我很害怕,害怕得自己就想从这个房间里跑出去……可是,后来总算想起你说过的话,心情就一点点地平静下来了。你不是曾经对我说过吗——我们现在的生活,到了遥远的将来,再回忆起来,该是多麼的美啊。”

彼女はだんだん嗄れたような声になりながらそれを言い毕えると、一种の微笑ともつかないようなもので口元を歪めながら、私をじっと见つめた。

她的声音越发的沙哑。说完这番话,用一种说不上是微笑的表情,歪著嘴角,一动不动地注视著我。

彼女のそんな言叶を闻いているうちに、たまらぬほど胸が一ぱいになり出した私は、しかし、そういう自分の感动した様子を彼女に见られることを恐れでもするように、そっとバルコンに出て行った。そしてその上から、尝て私达の幸福をそこに完全に描き出したかとも思えたあの初夏の夕方のそれに似た――しかしそれとは全然异った秋の午前の光、もっと冷たい、もっと深味のある光を帯びた、あたり一帯の风景を私はしみじみと见入りだしていた。あのときの幸福に似た、しかしもっともっと胸のしめつけられるような见知らない感动で自分が一ぱいになっているのを感じながら……

我听著她这番话,不知不觉地心里酸楚难耐。但是,我害怕被她看到自己感动的样子,便悄悄地走到阳台。然后就在这阳台上,深深地凝望著周边一带的景色。这景色,与那个初夏的傍晚——我们曾经以为它已经完全描绘了我们的幸福——很相似,但却不完全相同。这景色带著的,是秋日午前更冷、更有蕴意的光。我感到有一种与那时的幸福感很像,却更加令人心中痛楚、从未有过的感动,越来越充溢著自己的身体……




一九三五年十月二十日

午后、いつものように病人を残して、私はサナトリウムを离れると、収获に忙しい农夫等の立ち働いている田畑の间を抜けながら、雑木林を越えて、その山の洼みにある人けの绝えた狭い村に下りた后、小さな溪流にかかった吊桥を渡って、その村の対岸にある栗の木の多い低い山へ攀じのぼり、その上方の斜面に腰を下ろした。そこで私は何时间も、明るい、静かな気分で、これから手を着けようとしている物语の构想に耽っていた。ときおり私の足もとの方で、思い出したように、子供等が栗の木をゆすぶって一どきに栗の実を落す、その溪じゅうに响きわたるような大きな音に愕かされながら……

下午,像平时一样,我留下了节子,离开了疗养院。穿过忙於收获的农夫们劳作的田间,越过杂树山,走过山洼的吊桥,攀上村庄对面长著许多栗树的矮山,在山顶的斜坡上坐了下来。在那里,我在明快静谧的气氛中,沉浸於即将著手的故事的构思之中,已经有好几个小时了。在我脚下那边,孩子们摇晃著栗子树,一阵栗子落下,发出巨大的声音,响彻了整个山谷。我便时而被这声音惊醒,回到现实中来……

そういう自分のまわりに见闻きされるすべてのものが、私达の生の果実もすでに熟していることを告げ、そしてそれを早く取り入れるようにと自分を促しでもしているかのように感ずるのが、私は好きであった。

这样的我,身边所见所闻的一切,仿佛宣告著:我们的生之果实,已经成熟,催促著自己快一点收获。我喜欢这种感觉。

ようやく日が倾いて、早くもその溪の村が向うの雑木山の影の中にすっかりはいってしまうのを认めると、私は徐かに立ち上って、山を下り、再び吊桥をわたって、あちらこちらに水车がごとごとと音を立てながら绝えず廻っている狭い村の中を何んということはなしに一まわりした后、八ヶ岳の山麓一帯に拡がっている落叶松林の縁を、もうそろそろ病人がもじもじしながら自分の帰りを待っているだろうと考えながら、心もち足を早めてサナトリウムに戻るのだった。

看到渐渐西斜的太阳,即将完全没入那山谷村庄对面的杂树山影之中时,我慢慢站起,走下山丘,再次步过吊桥,漫无目的地在小村庄里转过一遭,村中到处回响著水车“咕咚”的声响。然后我沿著一直延伸到八岳山麓的落叶松林的边缘,一边想著:节子恐怕已经在含情脉脉地等著自己归来,一边小心地加快脚步,回到了疗养院。
十月二十三日

明け方近く、私は自分のすぐ身近でしたような気のする异様な物音に惊いて目を覚ました。そうしてしばらく耳をそば立てていたが、サナトリウム全体は死んだようにひっそりとしていた。それからなんだか目が冴えて、私はもう寝つかれなくなった。

将近天明,我被感觉就在身边的奇异声音惊醒。於是侧耳良久,但是整个疗养院死一般的寂静。然后我便无端地清醒,再也难以入眠。

小さな蛾のこびりついている窓硝子をとおして、私はぼんやりと暁の星がまだ二つ三つ幽かに光っているのを见つめていた。が、そのうちに私はそういう朝明けが何んとも云えずに寂しいような気がして来て、そっと起き上ると、何をしようとしているのか自分でも分らないように、まだ暗い隣りの病室へ素足のままではいって行った。そうしてベッドに近づきながら、节子の寝颜を屈み込むようにして见た。すると彼女は思いがけず、ぱっちりと目を见ひらいて、そんな私の方を见上げながら、

通过粘著小飞蛾的玻璃窗,我漠然注视著晨星三三两两地发著幽幽的光。但是,不知不觉地,我对这黎明感到了难以名状的孤独,悄悄起来,似乎自己也不知道想做什麼,光著脚走进了尚在黑暗中的隔壁病房。走近床头,弯下腰去看节子的睡容。这时,她出人意料地一下子睁开眼睛,向上看著我,有些奇怪地问道:

「どうなすったの?」と讶しそうに讯いた。
“怎麼了?”

私は何んでもないと云った目くばせをしながら、そのまま徐かに彼女の上に身を屈めて、いかにも怺え切れなくなったようにその颜へぴったりと自分の颜を押しつけた。
我一边用眼神告诉她没什麼,一边就那样慢慢俯身压在她的身上,然后仿佛无法支持似的,把自己的脸一下子压到了她的脸上。

「まあ、冷たいこと」彼女は目をつぶりながら、头をすこし动かした。髪の毛がかすかに匂った。そのまま私达はお互のつく息を感じ合いながら、いつまでもそうしてじっと頬ずりをしていた。
“啊!好冷!”她闭上眼睛,微微摇头。她的头发散著微香。我们就这样,互相感受著对方的气息,久久的、一动不动地脸贴著脸。

「あら、又、栗が落ちた……」彼女は目を细目に明けて私を见ながら、そう嗫いた。
“呀,栗子又落了……”她把眼睛睁开一条缝看著我,自言自语道。

「ああ、あれは栗だったのかい。……あいつのお荫でおれはさっき目を覚ましてしまったのだ」
“啊,是栗子吗?……就是这些掉下来的栗子,才让我刚醒过来的。”

私は少し上ずったような声でそう言いながら、そっと彼女を手放すと、いつの间にかだんだん明るくなり出した窓の方へ歩み寄って行った。そしてその窓に倚りかかって、いましがたどちらの目から渗み出たのかも分らない热いものが私の頬を伝うがままにさせながら、向うの山の背にいくつか云の动かずにいるあたりが赤く浊ったような色あいを帯び出しているのを见入っていた。畑の方からはやっと物音が闻え出した。……

我一边用略微高一些的声调说著,一边轻轻放开她,走向不知不觉中已经渐渐明亮起来的窗户,然后,倚著窗户,出神地看著对面山后几片静止的云,那云被染上了浓重的深红色调,任那刚刚不知是谁眼里涌出的热泪,往我的脸庞潸然而下。田野那边终於传来了声响……

「そんな事をしていらっしゃるとお风を引くわ」ベッドから彼女が小さな声で言った。
“那样会感冒的!”她在床那边小声地说。

私は何か気軽い调子で返事をしてやりたいと思いながら、彼女の方をふり向いた。が、大きく?って気づかわしそうに私を见つめている彼女の目と见合わせると、そんな言叶は出されなかった。そうして无言のまま窓を离れて、自分の部屋に戻って行った。

我一边想要用一种轻松的语气回应她,一边回头看著她。可是,一遇到她那睁大著的、担心地注视著我的眼睛,那样的话便难以启齿。於是,我默默地离开窗户,回到自己的房间。

それから数分立つと、病人は明け方にいつもする、抑えかねたような剧しい咳を出した。再び寝床に潜りこみながら、私は何んともかとも云われないような不安な気持でそれを闻いていた。

此后过了几分钟,节子发出了总是在天亮时就无法抑制的剧烈咳嗽。我再次钻进被窝里,以一种难以名状的不安心情静听著。

十月二十七日

私はきょうもまた山や森で午后を过した。
今天下午,我也是在山林中度过的。

一つの主题が、终日、私の考えを离れない。真の婚约の主题――二人の人间がその余りにも短い一生の间をどれだけお互に幸福にさせ合えるか? 抗いがたい运命の前にしずかに头を项低れたまま、互に心と心と、身と身とを温め合いながら、并んで立っている若い男女の姿、――そんな一组としての、寂しそうな、それでいて何処か愉しくないこともない私达の姿が、はっきりと私の目の前に见えて来る。それを措いて、いまの私に何が描けるだろうか?……

一个主题,终日没有离开我的思索。真正婚姻的主题——两个人,在极其短暂的一生之间,到底能互相让对方得到多少幸福?在难以抗拒的命运面前,承认现实,互相心温暖著心、身温暖著身,并且挺立著的青年男女的形象——我们就是这麼一对,寂寞、没有丝毫欢乐的形象,越发清晰地呈现在我的眼前。舍此之外,而今的我还能描绘出些什麼?……

果てしのないような山麓をすっかり黄ばませながら倾いている落叶松林の縁を、夕方、私がいつものように足早に帰って来ると、丁度サナトリウムの裏になった雑木林のはずれに、斜めになった日を浴びて、髪をまぶしいほど光らせながら立っている一人の背の高い若い女が远く认められた。私はちょっと立ち止まった。どうもそれは节子らしかった。しかしそんな场所に一人きりのようなのを见て、果して彼女かどうか分らなかったので、私はただ前よりも少し足を早めただけだった。が、だんだん近づいて见ると、それはやはり节子であった。

山坡上的落叶松林,将那似乎无边无际的山麓完全染黄。傍晚,沿著松林的边上,我像以往一样,我像以往一样快步走回。远远的看见一个年轻的高个年轻女子,恰好站在疗养院后面的杂木林边,沐浴著落日余晖,头发闪著耀眼的光。我略微停下了脚步。那女子实在太像节子了。可是,看到她一个人站在那,真不知道到底是不是她。所以,我只是比此前的脚步略快了一些,向前走去。可是,渐渐走近了看时,竟然真是节子。

「どうしたんだい?」私は彼女の侧に駈けつけて、息をはずませながら讯いた。
“怎麼了?”我跑到她的身边,喘著粗气问道。

「此処であなたをお待ちしていたの」彼女は颜を少し赧くして笑いながら答えた。
“在这等你来著。”她的脸略微红了,笑著回答。

「そんな乱暴な事をしても好いのかなあ」私は彼女の颜を横から见た。“
这样胡来可不好!”我侧望著她的脸。

「一遍くらいなら构わないわ。……それにきょうはとても気分が好いのですもの」つとめて快活な声を出してそう言いながら、彼女はなおもじっと私の帰って来た山麓の方を见ていた。
“就这一次,没关系的啦……今天心情特别好。”她竭力地用快活的语气说道,仍旧一动不动地看著我,看著前面的山麓。

「あなたのいらっしゃるのが、ずっと远くから见えていたわ」
“大老远就看到你在那里了。”

私は何も言わずに、彼女の侧に并んで、同じ方角を见つめた。
我什麼也没有说,站在她的身边,注视著同样的方向。

彼女が再び快活そうに言った。「此処まで出ると、八ヶ岳がすっかり见えるのね」
她又快活地说:“到了这里,就能看到整个八岳山了吗?”

「うん」“嗯。”

と私は気のなさそうな返事をしたきりだったが、そのままそうやって彼女と肩を并べてその山を见つめているうちに、ふいと何んだか不思议に混んがらかったような気がして来た。

我只是兴趣索然地应了一声。但是,就这样和她并肩注视著那座山的时候,忽然感到了一种奇妙的朦胧混沌之感。

「こうやってお前とあの山を见ているのはきょうが始めてだったね。だが、おれにはどうもこれまでに何遍もこうやってあれを见ていた事があるような気がするんだよ」

“今天是第一次这样和你看这座山吧?可是,我怎麼觉得,好像在这之前,我曾经也这样看了这山很多次啊。”

「そんな筈はないじゃあないの?」“不可能吧?”

「いや、そうだ……おれはいま渐っと気がついた……おれ达はね、ずっと前にこの山を丁度向う侧から、こうやって一しょに见ていたことがあるのだ。いや、お前とそれを见ていた夏の时分はいつも云に妨げられて殆ど何も见えやしなかったのさ。……しかし秋になってから、一人でおれが其処へ行ってみたら、ずっと向うの地平线の果てに、この山が今とは反対の侧から见えたのだ。あの远くに见えた、どこの山だかちっとも知らずにいたのが、确かにこれらしい。丁度そんな方角になりそうだ。……お前、あの薄がたんと生い茂っていた原を覚えているだろう?」

“不是的,对了……我现在终於想起来了……我们在很久很久以前,正好是从山的对面,就这样一起看过来的。哦,不对,和你一起看的时候是夏天,有云挡著,什麼也看不见。……可是,到了秋天,我一个人去那一看,就能在远处地平线的尽头看到这座山,那是和现在相反的一侧。当时一点也不知道,从远处呈现出来的山,是个什麼地方,但的确是很像这座山。好像就是这个角度了。……对了,你还记得那片芒草长得很盛的草原吗?”

「ええ」
“嗯。”

「だが実に妙だなあ。いま、あの山の麓にこうしてこれまで何も気がつかずにお前と暮らしていたなんて……」
“但是,真的很奇怪。现在就这样对著那山,想不到和你一起生活了这麼久,怎麼一点都没有注意到呢……”

丁度二年前の、秋の最后の日、一面に生い茂った薄の间からはじめて地平线の上にくっきりと见出したこの山々を远くから眺めながら、殆ど悲しいくらいの幸福な感じをもって、二人はいつかはきっと一绪になれるだろうと梦见ていた自分自身の姿が、いかにも懐かしく、私の目に鲜かに浮んで来た。

恰好两年前,那个秋季的最后一天,自己远远眺望著群山——今天,它第一次清晰地呈现在茂密生长著的芒草丛中。那时,我用近乎悲伤的幸福感觉,幻想著两个人终将在一起。这个身影在我眼前历历浮现,令人怀念。

私达は沈黙に落ちた。その上空を渡り鸟の群れらしいのが音もなくすうっと横切って行く、その并み重った山々を眺めながら、私达はそんな最初の日々のような慕わしい気持で、肩を押しつけ合ったまま、伫んでいた。そうして私达の影がだんだん长くなりながら草の上を这うがままにさせていた。

我们陷入了沉默。飞过天空的鸟群静静地横穿而过。我们带著最初的日子里的仰慕,眺望著这层层迭迭的群山,互相搭著肩膀伫立著。就这样,任我们的身影在草地上慢慢伸长、爬行。

やがて风が少し出たと见えて、私达の背后の雑木林が急にざわめき立った。

不久,似乎风儿起了。我们背后的杂木林开始嘈杂了起来。

私は「もうそろそろ帰ろう」と不意と思い出したように彼女に言った。

“我们应该要回去了。”我好像才想到似的突然对她说。

私达は绝えず落叶のしている雑木林の中へはいって行った。私はときどき立ち止まって、彼女を少し先きに歩かせた。二年前の夏、ただ彼女をよく见たいばかりに、わざと私の二三歩先きに彼女を歩かせながら森の中などを散歩した顷のさまざまな小さな思い出が、心臓をしめつけられる位に、私の里に一ぱいに溢れて来た。

我们走近落叶不断的杂木林。我时而停下脚步,让她先走一些。两年前的夏天,只是为了好好的看著她,我在森林中散步的时候,也会故意的让她走在我两三步之前。那时各种各样零零碎碎的回忆,在我的身体里洋溢著,几乎挤得让人心疼。


十一月二日

夜、一つの明りが私达を近づけ合っている。その明りの下で、ものを言い合わないことにも驯れて、私がせっせと私达の生の幸福を主题にした物语を书き続けていると、その笠の荫になった、薄暗いベッドの中に、节子は其処にいるのだかいないのだか分らないほど、物静かに寝ている。ときどき私がそっちへ颜を上げると、さっきからじっと私を见つめつづけていたかのように私を见つめていることがある。「こうやってあなたのお侧にいさえすれば、私はそれで好いの」と私にさも言いたくってたまらないでいるような、爱情を笼めた目つきである。

夜晚,一盏灯将我们拉在一起。灯下,已经习惯了相互的无语。我继续卖力地写著以我们活著的幸福为主题的故事。灯罩的阴影处,节子静静地躺在微暗的床上,安静得让人几乎以为她不在那里。我时而抬起头看她,她正在凝视著我,似乎一直都在凝视著的。她的眼神里洋溢著爱意,仿佛忍不住要说:“只要能这样在你身边,我就高兴。”

ああ、それがどんなに今の私に自分达の所有している幸福を信じさせ、そしてこうやってそれにはっきりした形を与えることに努力している私を助けていてくれることか!

啊!这让我相信了:现在我们拥有的幸福,并努力要给这种幸福一种清晰的形态,这对於我有多大的帮助呀!

十一月十日

冬になる。空は拡がり、山々はいよいよ近くなる。その山々の上方だけ、雪云らしいのがいつまでも动かずにじっとしているようなことがある。そんな朝には山から雪に追われて来るのか、バルコンの上までがいつもはあんまり见かけたことのない小鸟で一ぱいになる。そんな雪云の消え去ったあとは、一日ぐらいその山々の上方だけが薄白くなっていることがある。そしてこの顷はそんないくつかの山の顶きにはそういう雪がそのまま目立つほど残っているようになった。

冬天到了。天空更加广阔,群山终於走近。有时,貌似雪云的云团,一动不动地只是凝固在群山的顶峰。这样的早晨,也许是被雪从山上赶来的,阳台上满是平日里难以见到的鸟儿。而那雪云散去之后,约有一天左右,只有群山的顶部变得微白。而近日来,那几座山的顶上,残雪一直醒目地停留著。

私は数年前、屡々、こういう冬の淋しい山岳地方で、可爱らしい娘と二人きりで、世间から全く隔って、お互がせつなく思うほどに爱し合いながら暮らすことを好んで梦みていた顷のことを思い出す。私は自分の小さい时から失わずにいる甘美な人生へのかぎりない梦を、そういう人のこわがるような苛酷なくらいの自然の中に、それをそっくりそのまま少しも害わずに生かしてみたかったのだ。そしてそのためにはどうしてもこういう本当の冬、淋しい山岳地方のそれでなければいけなかったのだ……

我想起几年前,常常喜欢幻想:在这种冬天寂寞的山区,和可爱的姑娘二人完全与世隔绝地、痛切地深爱著,一同生活著。我其实是想,把自己儿时执著的、对甜美人生的无限梦想,一模一样、原封不动、毫发无损地再生到这个骇人的残酷自然中来。为了这个目的,则无论如何,非如此真正的冬天、寂寞的山地不可…… 

――夜の明けかかる顷、私はまだその少し病身な娘の眠っている间にそっと起きて、山小屋から雪の中へ元気よく飞び出して行く。あたりの山々は、曙の光を浴びながら、蔷薇色に赫いている。私は隣りの农家からしぼり立ての山羊の乳を贳って、すっかり冻えそうになりながら戻ってくる。それから自分で暖炉に焚木をくべる。やがてそれがぱちぱちと活溌な音を立てて燃え出し、その音で渐っとその娘が目を覚ます时分には、もう私はかじかんだ手をして、しかし、さも愉しそうに、いま自分达がそうやって暮している山の生活をそっくりそのまま书き取っている……

——黎明时分,趁著那身染小恙的姑娘尚在梦中,我悄悄起床,精神饱满地从山间小屋跳到雪中。周围的群山沐浴著曙光,闪耀著蔷薇色的光芒。我从临近的农家,取来刚刚挤出的山羊奶,在冻透中归来。然后自己给暖炉添上木材,不一会儿,木材就发出了劈劈啪啪的声响,快活地燃烧起来。

今朝、私はそういう自分の数年前の梦を思い出し、そんな何処にだってありそうもない版画じみた冬景色を目のあたりに浮べながら、その丸木造りの小屋の中のさまざまな家具の位置を换えたり、それに就いて私自身と相谈し合ったりしていた。それから遂にそんな背景はばらばらになり、ぼやけて消えて行きながら、ただ私の目の前には、その梦からそれだけが现実にはみ出しでもしたように、ほんの少しばかり雪の积った山々と、裸になった木立と、冷たい空気とだけが残っていた。……

那声音渐渐的把姑娘吵醒。这时,我的手已经冻僵,但是我还是极其愉悦地、原封不动地临摹著我们现在这样的山中生活……今天早晨,我想起自己这个几年前的梦想,眼前浮现著那个无处可寻的充满版画情调的冬景。同时不断的更换著、不断地和自己商讨著,那用圆木建造起来的山间小屋,还有屋里各种家俱的位置。不久以后,那背景终於支离破碎,模糊淡去,仿佛从梦中回到现实一样,在我眼前,只剩下积著几许残雪的群山、赤裸的树木,还有冰冷的空气……

一人で先きに食事をすませてしまってから、窓ぎわに椅子をずらしてそんな思い出に耽っていた私は、そのとき急に、いまやっと食事を了え、そのままベッドの上に起きながら、なんとなく疲れを帯びたようなぼんやりした目つきで山の方を见つめている节子の方をふり向いて、その髪の毛の少しほつれている窭れたような颜をいつになく痛々しげに见つめ出した。

我一个人先吃了饭,就把椅子拉到窗前,沉迷於这样的回忆之中。这时,我猛然回头朝节子那边看去。她现在终於吃完了饭,就那样在床上坐起来,用总是有些疲劳的漠然眼神,注视著山的那边。我注视著她微散著的头发、瘦削的脸,感到从未有过的痛。

「このおれの梦がこんなところまでお前を连れて来たようなものなのだろうかしら?」と私は何か悔いに近いような気持で一ぱいになりながら、口には出さずに、病人に向って话しかけた。

“难道是因为我的梦想,竟然把你带到了这种地方来?”我被一种近乎悔恨的心情充溢著。这句话,我终究没有说出来。

「それだというのに、この顷のおれは自分の仕事にばかり心を夺われている。そうしてこんな风にお前の侧にいる时だって、おれは现在のお前の事なんぞちっとも考えてやりはしないのだ。それでいて、おれは仕事をしながらお前のことをもっともっと考えているのだと、お前にも、それから自分自身にも言って闻かせてある。そうしておれはいつのまにか好い気になって、お前の事よりも、おれの诘まらない梦なんぞにこんなに时间を溃し出しているのだ……」

我对节子说:“话虽如此,可是我这几天的心思,都被工作占据了。即使是这样在你身边的时候,我也根本没有去想你的事情。就是这样,我对你、也对我自己说:‘要一边工作,一边更多更多地去想你的事情。’於是我的心情就会不知不觉的快乐起来。曾经我那些无聊的梦想,要比你的事情,更多地消磨了我的时间……”

そんな私のもの言いたげな目つきに気がついたのか、病人はベッドの上から、にっこりともしないで、真面目に私の方を见かえしていた。この顷いつのまにか、そんな具合に、前よりかずっと长い间、もっともっとお互を缔めつけ合うように目と目を见合わせているのが、私达の习惯になっていた。

也许是注意到了我那种若有所思的目光,节子在床上没有微笑,神情认真地注视著我。近来,在这种情形下,比以往更久的,把两人拉得更紧的、眼睛与眼睛的对视,不知不觉间已经成了我们的习惯


十一月十七日

私はもう二三日すれば私のノオトを书き了えられるだろう。それは私达自身のこうした生活に就いて书いていれば切りがあるまい。それをともかくも一応书き了えるためには、私は何か结末を与えなければならないのだろうが、今もなおこうして私达の生き続けている生活にはどんな结末だって与えたくはない。いや、与えられはしないだろう。宁ろ、私达のこうした现在のあるがままの姿でそれを终らせるのが一番好いだろう。

再过两三天,我的笔记就该写完了。我就我们自己这个生活来写,恐怕会无穷无尽。为了让它有个了结,我必须给它一个结局。但是,我不想给我们现在不断延续著的生活本身以任何结局。不,应该是无法给出任何结局。倒不如说,用保持我们现在的一切来结束它,恐怕才是最好的。

现在のあるがままの姿?……私はいま何かの物语で読んだ「幸福の思い出ほど幸福を妨げるものはない」という言叶を思い出している。现在、私达の互に与え合っているものは、尝て私达の互に与え合っていた幸福とはまあ何んと异ったものになって来ているだろう!それはそう云った幸福に似た、しかしそれとはかなり异った、もっともっと胸がしめつけられるように切ないものだ。こういう本当の姿がまだ私达の生の表面にも完全に现われて来ていないものを、このまま私はすぐ追いつめて行って、果してそれに私达の幸福の物语に相応しいような结末を见出せるであろうか? なぜだか分らないけれど、私がまだはっきりさせることの出来ずにいる私达の生の侧面には、何んとなく私达のそんな幸福に敌意をもっているようなものが潜んでいるような気もしてならない。……

保持现在拥有的一切?……我现在想起,在某篇小说里读到的一句话:“幸福的最大阻碍,就是对幸福的追忆。”我们现在互相给予的幸福,跟我们曾经互相给予的幸福相比,正在变得何等的不同!那是与那种幸福相似但相去甚远、更加让人心痛的苦楚。这个的本来面目,并没有完全体现在我们的生活表面,而我们就这样去苦苦追寻。到底能不能发现跟我们幸福故事相称的结局呢?不知何故,我不由得感到,在我还不能窥探到人生哪怕是它的一个侧面时,我总是不自觉的,对我们那种幸福潜存著一种近乎敌意的东西。……

そんなことを私は何か落着かない気持で考えながら、明りを消して、もう寝入っている病人の侧を通り抜けようとして、ふと立ち止まって暗がりの中にそれだけがほの白く浮いている彼女の寝颜をじっと见守った。その少し落ち洼んだ目のまわりがときどきぴくぴくと痉挛れるようだったが、私にはそれが何物かに胁かされてでもいるように见えてならなかった。私自身の云いようもない不安がそれを唯そんな风に感じさせるに过ぎないであろうか?

关灯后,正要走过已经入睡的节子身旁时,我忽然止住了脚步。一边焦躁不安地思考著这些事情,一边凝视著她的脸——那唯一在黑暗中泛著微白的脸。她那有些凹下的眼周,时而痉挛般地微微跳动。而在我看来,那就像是受到某种威胁一样。我自己就有那种不可名状的不安,不会也让她有如此的感受吧?


十一月二十日

私はこれまで书いて来たノオトをすっかり読みかえしてみた。私の意図したところは、これならまあどうやら自分を満足させる程度には书けているように思えた。

我把迄今为止写下的笔记全部重读了一遍。我觉得照这样,大体上可以写到让自己满意的程度。

が、それとは别に、私はそれを読み続けている自分自身の里に、その物语の主题をなしている私达自身の「幸福」をもう完全には味わえそうもなくなっている、本当に思いがけない不安そうな私の姿を见出しはじめていた。そうして私の考えはいつかその物语そのものを离れ出していた。

但是在另一个问题上,当我在不断读著笔记时,我感觉自己的思索,不知不觉地离开了故事本身——我开始发现,自我已经完全不能体会故事主题中关於我们自身的“幸福”,还有那个超出想像的、仍陷入不安中的我。

「この物语の中のおれ达はおれ达に许されるだけのささやかな生の愉しみを味わいながら、それだけで独自にお互を幸福にさせ合えると信じていられた。少くともそれだけで、おれはおれの心を缚りつけていられるものと思っていた。――が、おれ达はあんまり高く狙い过ぎていたのであろうか? そうして、おれはおれの生の欲求を少し许り见くびり过ぎていたのであろうか? そのために今、おれの心の缚がこんなにも引きちぎられそうになっているのだろうか? ……」

“在这个故事中,我们品味著自己力所能及的、淡淡的生之快乐。同时,又是那样的坚信,能够用独特的方式,给对方以幸福。至少仅此一点,我觉得我的心是被束缚著的。——可是,我们的标准是否太高?而且,是不是我把自己的生之欲望看得过轻了呢?是不是现在我心上的绳索,正是因为这样,被我紧绷得快断开了呢?……”

「可哀そうな节子……」“可怜的节子……”

と私は机にほうり出したノオトをそのまま片づけようともしないで、考え続けていた。
我一点也不想整理被我扔在桌上的笔记本,继续思索著。

「こいつはおれ自身が気づかぬようなふりをしていたそんなおれの生の欲求を沈黙の中に见抜いて、それに同情を寄せているように见えてならない。そしてそれが又こうしておれを苦しめ出しているのだ。……おれはどうしてこんなおれの姿をこいつに隠し了せることが出来なかったのだろう? 何んておれは弱いのだろうなあ……」

“她在沉默中,看穿了我自己带著不在意来伪装著的生之欲望,她表现出了对这样的我的同情,那是再也清楚不过的了。而这样,又让我如此的痛苦。……我为什麼不能在她面前彻底地隐藏自己呢?我是多麼的无能啊……”

私は、明りの荫になったベッドにさっきから目を半ばつぶっている病人に目を移すと、殆ど息づまるような気がした。私は明りの侧を离れて、徐かにバルコンの方へ近づいて行った。
我把目光移向灯影之下。节子在床上,从刚才开始就一直半合著眼睛。有一种近乎窒息的感觉向我袭来。我从灯边走开,缓缓地靠近阳台。

小さな月のある晩だった。それは云のかかった山だの、丘だの、森などの轮廓をかすかにそれと见分けさせているきりだった。そしてその他の部分は殆どすべて钝い青味を帯びた暗の中に溶け入っていた。

今夜弦月如钩,只能模糊地判定出披著白雪的山岳、丘陵、森林的轮廓。而其余的景物,则几乎都融入了带著朦朦蓝色的黑暗之中。

しかし私の见ていたものはそれ等のものではなかった。私は、いつかの初夏の夕暮に二人で切ないほどな同情をもって、そのまま私达の幸福を最后まで持って行けそうな気がしながら眺め合っていた、まだその何物も消え失せていない思い出の中の、それ等の山や丘や森などをまざまざと心に苏らせていたのだった。そして私达自身までがその一部になり切ってしまっていたようなそういう一瞬时の风景を、こんな具合にこれまでも何遍となく苏らせたので、それ等のものもいつのまにか私达の存在の一部分になり、そしてもはや季节と共に変化してゆくそれ等のものの、现在の姿が时とすると私达には殆ど见えないものになってしまう位であった。……

但是,我不是在看它们。我只是在心中历历地找回,那些曾经在一个初夏的黄昏,两个人带著深切的同情,把我们的幸福永远不变地进行到底时的、现在还一个不少地印在记忆中的山岳、丘陵和森林。迄今为止,我们已经无数次地重温了那些瞬间的画面——就连我们也彻底变成了其中一部分。那些画面,已在不知不觉中,成为我们存在的一部分。甚至有时我们几乎看不到,它们现在已经一起随季节的变化,变幻了身姿。……

「あのような幸福な瞬间をおれ达が持てたということは、それだけでももうおれ达がこうして共に生きるのに値したのであろうか?」と私は自分自身に问いかけていた。

我质问的自己:“我们能够拥有那麼幸福的瞬间,仅此就已经值得我们如此地共同生活了吗?”

私の背后にふと軽い足音がした。それは节子にちがいなかった。が、私はふり向こうともせずに、そのままじっとしていた。彼女もまた何も言わずに、私から少し离れたまま立っていた。しかし、私はその息づかいが感ぜられるほど彼女を近ぢかと感じていた。ときおり冷たい风がバルコンの上をなんの音も立てずに掠め过ぎた。何処か远くの方で枯木が音を引きむしられていた。

在我的身后响起了轻轻的脚步声,那一定是节子。可是,我不想回头,依旧一动不动。她什麼也没说,站在离我不远的地方。但是,我感觉她离我很近,近得几乎可以感受到她的呼吸。冷风时而无声地从阳台上掠过。远方某处的枯木被风吹得沙沙作响。

「何を考えているの?」とうとう彼女が口を切った。
“在想什麼?”她终於开口了。

私はそれにはすぐ返事をしないでいた。それから急に彼女の方へふり向いて、不确かなように笑いながら、「お前には分っているだろう?」と问い返した。

我没有马上回答她的问题,而是突然回身转向她,敷衍地笑著反问说:“你是不是已经知道?”

彼女は何か罠でも恐れるかのように注意深く私を见た。それを见て、私は、

她好像害怕有什麼圈套一样,小心翼翼地看著我。

「おれの仕事のことを考えているのじゃないか」とゆっくり言い出した。「おれにはどうしても好い结末が思い浮ばないのだ。おれはおれ达が无駄に生きていたようにはそれを终らせたくはないのだ。どうだ、一つお前もそれをおれと一しょに考えてくれないか?」

“还不是在考虑我工作的事?”看到她这样,我缓缓地说道。“我呀,到现在还想不到一个好的结局。我不想以我们碌碌无为地活著作为结局。怎麼样?你也和我一起琢磨一个结局好吗?”

彼女は私に微笑んで见せた。しかし、その微笑みはどこかまだ不安そうであった。

她对我露出了微笑,但她的微笑中似乎还有著某种不安。

「だってどんな事をお书きになったんだかも知らないじゃないの」彼女は渐っと小声で言った。

“可是,人家还不知道你写了什麼呢!”她终於小声地说。

「そうだっけなあ」と私はもう一度不确かなように笑いながら言った。「それじゃあ、そのうちに一つお前にも読んで闻かせるかな。しかしまだ、最初の方だって人に読んで闻かせるほど缠まっちゃいないんだからね」
“是啊。”我再次敷衍的笑著说。“那过几天就给你读一遍吧,只是,这是初稿,还没有整理到可以读给别人听的程度呢。”

私达は部屋の中へ戻った。私が再び明りの侧に腰を下ろして、其処にほうり出してあるノオトをもう一度手に取り上げて见ていると、彼女はそんな私の背后に立ったまま、私の肩にそっと手をかけながら、それを肩越しに覗き込むようにしていた。私はいきなりふり向いて、「お前はもう寝た方がいいぜ」と乾いた声で言った。

我们回到了房间里。我再次在电灯旁坐下,再一次把扔在那里的笔记本,拿在手里看。她就站在我的背后,轻轻地把手搭在我的肩头上,从我的肩膀上偷看。我回过头来,用乾巴巴的声音说:“你该去睡觉啦。”

「ええ」彼女は素直に返事をして、私の肩から手を少しためらいながら放すと、ベッドに戻って行った。
“嗯。”她顺从地应答我,犹豫了一下并把手从我的肩上放开,回到床上。

「なんだか寝られそうもないわ」二三分すると彼女がベッドの中で独り言のように言った。

“怎麼搞的?我一点也睡不著啊!”过了几分钟,她在床上自言自语地说。

「じゃ、明りを消してやろうか?……おれはもういいのだ」そう言いながら、私は明りを消して立ち上ると、彼女の枕もとに近づいた。そうしてベッドの縁に腰をかけながら、彼女の手を取った。私达はしばらくそうしたまま、暗の中に黙り合っていた。

“哦,那我就把灯给你关了吧?我也差不多了。”这样说著,我关了灯,站起来走近她的枕边。然后,坐在床边,抓起她的手。我们就这样在黑暗中,谁都没有说话。

さっきより风がだいぶ强くなったと见える。それはあちこちの森から绝えず音を引き?いでいた。そしてときどきそれをサナトリウムの建物にぶっつけ、どこかの窓をばたばた鸣らしながら、一番最后に私达の部屋の窓を少しきしらせた。それに怯えでもしているかのように、彼女はいつまでも私の手をはなさないでいた。そうして目をつぶったまま、自分の里の何かの作用に一心になろうとしているように见えた。そのうちにその手が少し缓んできた。彼女は寝入ったふりをし出したらしかった。

风似乎比刚才更强了,不断地在四周的森林里发出声响。而且时而吹到了疗养院的建筑物上,把不知道哪里的窗子吹得啪啪作响。最后,那风也让我们房间的窗子发出“咯吱咯吱”的声响。她一直抓住我的手不放,仿佛害怕了这声响一般。而且,她闭著眼睛,似乎要专注於身体里的某种功能。渐渐地,她的手松开了。看样子,她似乎已经睡熟了。

「さあ、今度はおれの番か……」そんなことを呟きながら、私も彼女と同じように寝られそうもない自分を寝つかせに、自分の真っ暗な部屋の中へはいって行った。

“好了,这回该轮到我了。”我这样自言自语地说著,为了让这个和她一样一点也睡不著的自己睡下,我走进了自己那漆黑的地方。

十一月二十六日

この顷、私はよく夜の明けかかる时分に目を覚ます。そんなときは、私は屡々そっと起き上って、病人の寝颜をしげしげと见つめている。ベッドの縁や壜などはだんだん黄ばみかけて来ているのに、彼女の颜だけがいつまでも苍白い。「可哀そうな奴だなあ」それが私の口癖にでもなったかのように自分でも知らずにそう言っているようなこともある。

这些日子,我常常在天快亮的时候醒来。这时候,我往往悄悄地起床,一动不动的凝视著节子的睡容。床边和花瓶都已经渐渐地变黄,只有她的脸永远苍白。“真是太可怜了。”这句话好像已经成了我的口头禅,有时候自己说了还不知道。

けさも明け方近くに目を覚ました私は、长い间そんな病人の寝颜を见つめてから、爪先き立って部屋を抜け出し、サナトリウムの裏の、裸过ぎる位に枯れ切った林の中へはいって行った。もうどの木にも死んだ叶が二つ三つ残って、それが风に抗っているきりだった。私がその空虚な林を出はずれた顷には、八ヶ岳の山顶を离れたばかりの日が、南から西にかけて立ち并んでいる山々の上に低く垂れたまま动こうともしないでいる云の块りを、见るまに赤あかと赫かせはじめていた。が、そういう曙の光も地上にはまだなかなか届きそうになかった。それらの山々の间に挟まれている冬枯れた森や畑や荒地は、今、すべてのものから全く打ち弃てられてでもいるような様子を见せていた。

今天早晨,我又在黎明时分醒来。注视了很久节子的睡容。然后我踮著脚尖走出去,走进疗养院后面枯得非常彻底的近乎全裸的森林。每一棵树,都已只剩下两三片死去的叶子,在抵抗著寒风。当我走出那片空虚的林子时,太阳刚刚离开八岳山顶,把自南向西低垂在比肩而立的群山之上、毫无去意的云团,转眼间染得鲜红。但是。这曙光还远远没有照到地面。现在,被夹在群山之间的那些冻枯了的森林、田野、荒地,仿佛被整个世界全部抛弃。

私はその枯木林のはずれに、ときどき立ち止まっては寒さに思わず足踏みしながら、そこいらを歩き廻っていた。そうして何を考えていたのだか自分でも思い出せないような考えをとつおいつしていた私は、そのうち不意に头を上げて、空がいつのまにか赫きを失った暗い云にすっかり锁されているのを认めた。私はそれに気がつくと、ついさっきまでそれをあんなにも美しく焼いていた曙の光が地上に届くのをそれまで心待ちにしてでもいたかのように、急になんだか诘まらなそうな恰好をして、足早にサナトリウムに引返して行った。

我在枯树林边徘徊,时而停下来,冷得下意识地跺著脚。就这样,思绪混乱,自己都不知道到底在想什麼。不经意间我抬起头,看到天空,已经在不知不觉中被失去红色的黑云完全覆盖。看到天色如此,我忽然感到扫兴,心里一直等待著那映著美丽彩霞的曙光降落大地,如今都落空了。我匆匆忙忙地回到了疗养院。

节子はもう目を覚ましていた。しかし立ち戻った私を认めても、私の方へは物忧げにちらっと目を上げたきりだった。そしてさっき寝ていたときよりも一层苍いような颜色をしていた。私が枕もとに近づいて、髪をいじりながら额に接吻しようとすると、彼女は弱々しく首を振った。私はなんにも讯かずに、悲しそうに彼女を见ていた。が、彼女はそんな私をと云うよりも、宁ろ、そんな私の悲しみを见まいとするかのように、ぼんやりした目つきで空を见入っていた。

节子已经醒了。但是看到我回来,也就是用忧郁的眼神朝我看了一眼。她的脸色,比睡著的时候更加苍白。我走近她的枕边,一边抚玩著她的头发,一边想去吻她的额头。她轻轻地摇头,我一句话也没有说,只是悲伤地看著她。但是她用漠然的眼神看著上方,似乎不是不想看到这样的我,而是不想看到我这样的悲伤。





何も知らずにいたのは私だけだったのだ。午前の诊察の済んだ后で、私は看护妇长に廊下へ呼び出された。そして私ははじめて节子がけさ私の知らない间に少量の喀血をしたことを闻かされた。彼女は私にはそれを黙っていたのだ。喀血は危険と言う程度ではないが、用心のためにしばらく附添看护妇をつけて置くようにと、院长が言い付けて行ったというのだ。――私はそれに同意するほかはなかった。

原来唯一被蒙在鼓里的就是我。上午的检查结束,护士长把我叫出来到走廊。我第一次听到这样的事:节子在今天早晨咳血,虽然咳出的血不多。她对我隐瞒了这事。院长说,咳血虽然说不上是危险,但以防万一,还是要安排一名随同护士。说完,就走了。——对此,我只能唯唯诺诺地同意著。

私は丁度空いている隣りの病室に、その间だけ引き移っていることにした。私はいま、二人で住んでいた部屋に何処から何処まで似た、それでいて全然见知らないような感じのする部屋の中に、一人ぼっちで、この日记をつけている。こうして私が数时间前から坐っているのに、どうもまだこの部屋は空虚のようだ。此処にはまるで谁もいないかのように、明りさえも冷たく光っている。

这期间,我决定搬到正好空著的隔壁病房去。这是个处处都像极了那个我们两个人一起住的房间。然而,又是那麼陌生的一个地方。我此刻,就在这里一个人孤零零地写著日记。就这样,虽然我已经坐了几个小时,但这个房间仍然有令人空虚的感觉。在这里,连灯光也是冷冷的,仿佛根本就没有任何人存在一样。


十一月二十八日

私は殆ど出来上っている仕事のノオトを、机の上に、少しも手をつけようとはせずに、ほうり出したままにして置いてある。それを仕上げるためにも、しばらく别々に暮らした方がいいのだと云うことを病人には云い含めて置いたのだ。

我把即将完成的工作笔记,扔在桌子上便再也不想沾了。放在那里,也是为了向节子说明我曾说过的话,为了完成它,我们分开住一段时间会好一些。

 が、どうしてそれに描いたような私达のあんなに幸福そうだった状态に、今のようなこんな不安な気持のまま、私一人ではいって行くことが出来ようか?
但是我一个人现在处在这种不安的心情之下,又怎麼样能够达到笔记中,我们所描述的那种幸福状态呢?

私は毎日、二三时间隔きぐらいに、隣りの病室に行き、病人の枕もとにしばらく坐っている。しかし病人に喋舌らせることは一番好くないので、殆んどものを言わずにいることが多い。看护妇のいない时にも、二人で黙って手を取り合って、お互になるたけ目も合わせないようにしている。
我每天隔两三个小时就到隔壁病房,在节子的枕边坐一会儿。但是在这个时候,节子被命令忌说话,所以我们往往是一言不发。即使在护士不在的时候,两个人也是手拉著手,尽量避免对视。

が、どうかして私达がふいと目を见合わせるようなことがあると、彼女はまるで私达の最初の日々に见せたような、一寸気まりの悪そうな微笑み方を私にして见せる。が、すぐ目を反らせて、空を见ながら、そんな状态に置かれていることに少しも不平を见せずに、落着いて寝ている。彼女は一度私に仕事は捗っているのかと讯いた。私は首を振った。そのとき彼女は私を気の毒がるような见方をして见た。が、それきりもう私にそんなことは讯かなくなった。そして一日は、他の日に似て、まるで何事もないかのように物静かに过ぎる。

但当我们的目光相遇的时候,她就会对我露出略带羞涩的微笑,宛如我们最初认识时的那种微笑。很快,她旋即移开视线,看著上方,对自己被弄成这样毫无怨言的静卧著。有一次她问我是否还继续工作。我摇了摇头。当时,她有些同情地看著我。之后,她便再也不问我那些事了。於是,那天也像其他日子一样,什麼也没有发生似的静静度过了。

そして彼女は私が代って彼女の父に手纸を出すことさえ拒んでいる。

此后,当我要求让我替她给父亲写信,她都拒绝了。

夜、私は遅くまで何もしないで机に向ったまま、バルコンの上に落ちている明りの影が窓を离れるにつれてだんだん幽かになりながら、暗に四方から包まれているのを、あたかも自分の心の里さながらのような気がしながら、ぼんやりと见入っている。ひょっとしたら病人もまだ寝つかれずに、私のことを考えているかも知れないと思いながら……

夜里,我对著桌子,直到很晚都无所事事地漠然凝视著阳台上落下的灯影,离视窗愈远,则灯影愈暗,被黑夜从四面八方包裹起来,感觉就像自己的内心世界一样。心里想著:节子或许会因为想著我而枕席不安……

十二月一日

この顷になって、どうしたのか、私の明りを慕ってくる蛾がまた殖え出したようだ。

这阵子,不知何故,朝我灯光飞来的飞蛾又多了起来。

夜、そんな蛾がどこからともなく飞んで来て、闭め切った窓硝子にはげしくぶつかり、その打撃で自ら伤つきながら、なおも生を求めてやまないように、死に身になって硝子に孔をあけようと试みている。私がそれをうるさがって、明かりを消してベッドに入ってしまっても、まだしばらく物狂わしい羽搏きをしているが、次第にそれが衰え、ついに何処かにしがみついたきりになる。そんな翌朝、私はかならずその窓の下に、一枚の朽ち叶みたいになった蛾の死骸を见つける。

夜里,那些不知从何而来的飞蛾,猛烈地撞击著紧闭著的窗子玻璃。虽然这种打击会伤害自己,但它们仍然求生不已地拼死想在玻璃上开出洞来。我对此感到厌恶,很快关灯上床。但那疯狂的振翅仍然持续了很久才逐渐减弱。第二天早晨,我必定会在那窗子下发现一只看似枯叶的飞蛾尸骸。

今夜もそんな蛾が一匹、とうとう部屋の中へ飞び込んで来て、私の向っている明りのまわりをさっきから物狂わしくくるくると廻っている。やがてばさりと音を立てて私の纸の上に落ちる。そしていつまでもそのまま动かずにいる。それからまた自分の生きていることを渐っと思い出したように、急に飞び立つ。自分でももう何をしているのだか分らずにいるのだとしか见えない。やがてまた、私の纸の上にばさりと音を立てて落ちる。

今夜也有那麼一只飞蛾,终於飞进屋里,最初是疯狂地绕住我面前的灯飞旋。过了一会,啪嗒一声落在我的纸上。然后,便一动不动了。而后,就像终於想起自己还活著一样,又突然飞起。它自己似乎也不知道到底在干什麼。不久,又啪嗒一声地落在我的纸上。

私は异様な怖れからその蛾を逐いのけようともしないで、かえってさも无関心そうに、自分の纸の上でそれが死ぬままにさせて置く。

我并未由於特别的恐惧而试图赶走飞蛾,反而漠不关心地任它在自己的纸上死去。

十二月五日

夕方、私达は二人きりでいた。附添看护妇はいましがた食事に行った。冬の日は既に西方の山の背にはいりかけていた。そしてその倾いた日ざしが、だんだん底冷えのしだした部屋の中を急に明るくさせ出した。私は病人の枕もとで、ヒイタアに足を载せながら、手にした本の上に身を屈めていた。そのとき病人が不意に、

傍晚,只有我们两个人。随同的护士刚刚出去吃饭。冬天的太阳快要落入西山背后。斜射的阳光,也让渐渐发冷的房间明亮起来。我在节子的枕边,把脚放在暖气上,拱著身子伏在手里拿著的书上。这时,节子突然轻声喊了起来:

「あら、お父様」とかすかに叫んだ。
“啊呀!爸爸!”

私は思わずぎくりとしながら彼女の方へ颜を上げた。私は彼女の目がいつになく赫いているのを认めた。――しかし私はさりげなさそうに、今の小さな叫びが耳にはいらなかったらしい様子をしながら、「いま何か言ったかい?」と讯いて见た。
我不仅吃惊地抬头看她,看到她的眼睛发出异常的光芒。——但是我装作若无其事,好像没有听到刚才到轻轻的喊声的样子。我问节子:“刚才你说什麼?”

彼女はしばらく返事をしないでいた。が、その目は一层赫き出しそうに见えた。
她许久没有回答。但是,她的眼睛看上去更加的明亮。

「あの低い山の左の端に、すこうし日のあたった所があるでしょう?」彼女はやっと思い切ったようにベッドから手でその方をちょっと指して、それから何んだか言いにくそうな言叶を无理にそこから引出しでもするように、その指先きを今度は自分の口へあてがいながら、

“那座矮山的左边,不是有一个像阳光一样亮的光点麼?”终於,她勇敢地从床上用手指了指那个方向,然后用手把那指尖放在嘴里,仿佛从中要硬拽出怎样的难言之辞一样。

「あそこにお父様の横颜にそっくりな影が、いま时分になると、いつも出来るのよ。……ほら、丁度いま出来ているのが分らない?」

“那个地方,有个影子,和父亲的侧脸一模一样,到这时候总能出现……看吧,正好,他现在出来了。你看到吗?”

その低い山が彼女の言っている山であるらしいのは、その指先きを辿りながら私にもすぐ分ったが、唯そこいらへんには斜めな日の光がくっきりと浮き立たせている山襞しか私には认められなかった。

顺著她的指尖,我立即就明白了,她说的那座山,就是那座矮一点的山。只是,我能看到的,只是那夕阳光照下夺目的山体褶皱。

「もう消えて行くわ……ああ、まだ额のところだけ残っている……」
“已经开始消失了……啊,只剩下额头了……”

そのとき渐っと私はその父の额らしい山襞を认めることが出来た。それは父のがっしりとした额を私にも思い出させた。

这时,我终於看到了,那片像她父亲额头的山体。那也让我想起了他父亲那坚毅的额头。

「こんな影にまで、こいつは心の里で父を求めていたのだろうか? ああ、こいつはまだ全身で父を感じている、父を呼んでいる……」

“她心里在追寻父亲,甚至求诸於这种山影呢?啊,她还在全身心地感受著父亲,呼唤著父亲……”

が、一瞬间の后には、暗がその低い山をすっかり満たしてしまった。そしてすべての影は消えてしまった。

但是,黑暗转眼之间就完全覆盖那座山,所有的影子都消失了。

「お前、家へ帰りたいのだろう?」私はついと心に浮かんだ最初の言叶を思わずも口に出した。

“你想回家了吗?”我终於不假思索地说出了最早浮现在心里的话。

そのあとですぐ私は不安そうに节子の目を求めた。彼女は殆どすげないような目つきで私を见つめ返していたが、急にその目を反らせながら、

说完,我马上不安地去看节子的眼神。她用近乎冷漠的眼光注视著我。她忽然移开视线,用沙哑的,若有若无的声音说:

「ええ、なんだか帰りたくなっちゃったわ」と闻えるか闻えない位な、かすれた声で言った。
“是啊,不知道为什麼,我想回家了。” 

私は唇を噛んだまま、目立たないようにベッドの侧を离れて、窓ぎわの方へ歩み寄った。我咬著嘴唇,悄悄地离开床边,走近窗前。

私の背后で彼女が少し颤え声で言った。「御免なさいね。……だけど、いま一寸の间だけだわ。……こんな気持、じきに直るわ……」

在我身后,她用颤抖的声音说:“对不起……只是,就是刚刚那麼一小会儿而已……这种心情,马上就会变好的……”

私は窓のところに両手を组んだまま、言叶もなく立っていた。山々の麓にはもう暗が块まっていた。しかし山顶にはまだ幽かに光が漂っていた。突然咽をしめつけられるような恐怖が私を袭ってきた。私はいきなり病人の方をふり向いた。彼女は両手で颜を押さえていた。急に何もかもが自分达から失われて行ってしまいそうな、不安な気持で一ぱいになりながら、私はベッドに駈けよって、その手を彼女の颜から无理に除けた。彼女は私に抗おうとしなかった。

我在窗前两臂相抱,一言不发地站著。群山的山麓已是一片黑暗,只是山顶尚有微光漂浮。有一种喉咙突然被扼住一般的恐惧,向我袭来。我猛地转向节子。她用双手捂著脸。突然间,有一种不安心情充溢著我的心头,似乎在这一刻,一切都将从我们这里失去。我奔向床前,把她的手从脸上的强行拉开,她并不想反抗我。

高いほどな额、もう静かな光さえ见せている目、引きしまった口もと、――何一ついつもと少しも変っていず、いつもよりかもっともっと犯し难いように私には思われた。……そうして私は何んでもないのにそんなに怯え切っている私自身を反って子供のように感ぜずにはいられなかった。私はそれから急に力が抜けてしまったようになって、がっくりと膝を突いて、ベッドの縁に颜を埋めた。そうしてそのままいつまでもぴったりとそれに颜を押しつけていた。病人の手が私の髪の毛を軽く抚でているのを感じ出しながら……

那高高的额头,目光沉静的双眼,紧闭的嘴角——什麼都没有变,比平时让我感到更加不可侵犯。……而我只无端地感到自己懦弱得像个孩子。我像突然虚脱了一样,一下子跪下,把脸埋在床边。就这样,一动不动的,把脸紧紧地贴著她。我感到,节子的手,在轻轻地抚摸著我的头发……

部屋の中までもう薄暗くなっていた。

房间里,一切,都变得昏暗起来了。


死亡之影的山谷


一九三六年十二月一日 K…村にて

一九三六年十二月一日 K??村

殆ど三年半ぶりで见るこの村は、もうすっかり雪に埋まっていた。一周间ばかりも前から雪がふりつづいていて、けさ渐っとそれが歇んだのだそうだ。炊事の世话を頼んだ村の若い娘とその弟が、その男の子のらしい小さな橇に私の荷物を载せて、これからこの冬を其処で私の过ごそうという山小屋まで、引き上げて行ってくれた。その橇のあとに附いてゆきながら、途中で何度も私は滑りそうになった。それほどもう谷かげの雪はこちこちに冻みついてしまっていた。……

几乎三年未见的村庄,已经被雪完全覆盖起来。据说,从一个星期前开始,雪就下个不停,今天早晨终於渐渐停下来了。请来帮忙做饭的村里年轻姑娘和她的弟弟,把我的行李装在那个和小男孩十分相称的小雪橇上。他们替我把东西拖上了山中小屋里——我将在这屋子里度过冬天。我尾随著雪橇,途中数次几乎滑倒。山谷阴面的雪,已经冻得相当坚硬了。……

私の借りた小屋は、その村からすこし北へはいった、或る小さな谷にあって、そこいらにも古くから外人たちの别荘があちこちに立っている、――なんでもそれらの别荘の一番はずれになっている筈だった。其処に夏を过ごしに来る外人たちがこの谷を称して幸福の谷と云っているとか。こんな人けの绝えた、淋しい谷の、一体どこが幸福の谷なのだろう、と私は今はどれもこれも雪に埋もれたまんま见弃てられているそう云う别荘を一つ一つ见过ごしながら、その谷を二人のあとから遅れがちに登って行くうちに、ふいとそれとは正反対の谷の名前さえ自分の口を冲いて出そうになった。私はそれを何かためらいでもするようにちょっと引っ込めかけたが、再び気を変えてとうとう口に出した。死のかげの谷。……そう、よっぽどそう云った方がこの谷には似合いそうだな、少くともこんな冬のさなか、こういうところで寂しい鳏暮らしをしようとしているおれにとっては。

我租的小屋就在那村稍北的一个小山谷。那里很早就建了很多洋人别墅——小屋大概就在那些别墅的最外边。据说,在那里消夏的洋人们称这个山谷为“幸福谷”。这种人迹罕至的寂寥山谷,到底有哪处可以称得上是“幸福”呢?我走在山谷里,逐个扫视著这些现在已经被雪掩埋著、被遗弃著的别墅,跟在两个人后边,不时被落下。不知不觉中,一个与之正好相反的山谷名字突然间几乎脱口而出。我似乎有些迟疑地略微停顿了一下,但又改变了主意,我终於说了出来:死亡之影山谷……是的,这个称谓,似乎於这个山谷而言更为贴切,至少对正要在这隆冬之中、在这里度过孤寂的鳏居生活的我而言。……

――と、そんな事を考え考え、渐っと私の借りる一番最后の小屋の前まで辿り着いてみると、申しわけのように小さなヴェランダの附いた、その木皮葺きの小屋のまわりには、それを取囲んだ雪の上になんだか得体の知れない足迹が一ぱい残っている。姉娘がその缔め切られた小屋の中へ先きにはいって雨戸などを明けている间、私はその小さな弟からこれは兎これは栗鼠、それからこれは雉子と、それらの异様な足迹を一々教えて贳っていた。

想到这些,我终於来到自己租的最外边的小屋子前。小屋子带著有名无实的阳台,用树皮铺顶,四周的雪上遍布著不知何物的足迹。姐姐先走进那锁著的小屋里,打开了防雨窗。其间,小弟弟指著那些奇怪的足迹,教我辨认——“这是兔子,那是松鼠,这是雉鸡……”

 それから私は、半ば雪に埋もれたヴェランダに立って、周囲を眺めまわした。私达がいま上って来た谷阴は、そこから见下ろすと、いかにも恰好のよい小ぢんまりとした谷の一部分になっている。ああ、いましがた例の橇に乗って一人だけ先きに帰っていった、あの小さな弟の姿が、裸の木と木との间から见え隠れしている。その可哀らしい姿がとうとう下方の枯木林の中に消えてしまうまで见送りながら、一わたりその谷间を见毕った时分、どうやら小屋の中も片づいたらしいので、私ははじめてその中にはいって行った。壁まですっかり杉皮が张りつめられてあって、天井も何もない程の、思ったよりも粗末な作りだが、悪い感じではなかった。すぐ二阶にも上って见たが、寝台から椅子と何から何まで二人分ある。丁度お前と私とのためのように。――そう云えば、本当にこう云ったような山小屋で、お前と差し向いの寂しさで暮らすことを、昔の私はどんなに梦见ていたことか!……

此后,我站在一半埋在雪里的阳台上眺望四周。从这里俯视,我们刚才走过的山谷阴面,正是这形态漂亮、小巧玲珑的山谷的一部分。啊呀,小弟弟刚才一个人乘著那个雪橇先回去了,他的身影,在枯树林中忽隐忽现。我目送著这可爱的身影,终於消失在下面的枯树林中。环视一周那山谷,小屋也在此时似乎打扫完毕了。我这才走进屋里。房屋的建造出乎意料的粗糙,墙壁也全部贴著杉树皮,天棚上,几乎什麼也没有。但是,自我感觉良好。我马上到二楼一看,从床位到椅子,所有的东西,都是双人的,就像正好为你和我准备的一样。——如此说来,我多麼梦想著,在这种真正的山间小屋里,和你寂静相向地生活著啊!……

夕方、食事の支度が出来ると、私はそのまますぐ村の娘を帰らせた。それから私は一人で暖炉の傍に大きな卓子を引き寄せて、その上で书きものから食事一切をすることに极めた。その时ひょいと头の上に挂かっている暦がいまだに九月のままになっているのに気がついて、それを立ち上がって剥がすと、きょうの日附のところに印をつけて置いてから、さて、私は実に一年ぶりでこの手帐を开いた。

傍晚,准备好了饭食,我就立刻让村里的姑娘回去了。然后,我独自将大桌子拉到暖炉旁,决定在那上面做从吃饭到写作的所有事情。这时,忽然发现头上的挂历还是九月,便站起来把它撕掉,在今天的日期附近做记号,然后打开笔记本。其实,我已经有一年没有打开过它了。

十二月五日

この数日、云いようもないほどよい天気だ。朝のうちはヴェランダ一ぱいに日が射し込んでいて、风もなく、とても温かだ。けさなどはとうとうそのヴェランダに小さな卓や椅子を持ち出して、まだ一面に雪に埋もれた谷を前にしながら、朝食をはじめた位だ。本当にこうして一人っきりでいるのはなんだか勿体ないようだ、と思いながら朝食に向っているうち、ひょいとすぐ目の前の枯れた灌木の根もとへ目をやると、いつのまにか雉子が来ている。それも二羽、雪の中に饵をあさりながら、ごそごそと歩きまわっている……

这几天,是难以形容的好天气。早晨,阳光洒满了阳台,也没有风,非常温暖。我甚至把小桌椅都搬到了阳台,面对著被雪覆盖的山谷,我吃起了早饭。面对著饭食,我想:独自一人呆在这里,实在有点可惜。这时,不经意间,往眼前的枯灌木根看去,雉鸡不知不觉地走来了。而且还是两只,一边在雪中觅食,一边沙沙作响地走来走去。……

「おい、来て御覧、雉子が来ているぞ」
“哎,看啊,雉鸡来啦!”

私はあたかもお前が小屋の中に居でもするかのように想像して、声を低めてそう一人ごちながら、じっと息をつめてその雉子を见守っていた。お前がうっかり足音でも立てはしまいかと、それまで気づかいながら……
宛如你也在小屋中一般,我想像著,压低声音自言自语著,屏著呼吸,一动不动注视著雉鸡。一边担心著你一不小心发出了脚步声,把它们都吓跑了……

その途端、どこかの小屋で、屋根の雪がどおっと谷じゅうに响きわたるような音を立てながら雪崩れ落ちた。私は思わずどきりとしながら、まるで自分の足もとからのように二羽の雉子が飞び立ってゆくのを呆気にとられて见ていた。そのとき殆ど同时に、私は自分のすぐ傍に立ったまま、お前がそういう时の癖で、何も言わずに、ただ大きく目を?りながら私をじっと见つめているのを、苦しいほどまざまざと感じた。

恰在这时,不知何处,小屋屋顶的积雪轰然崩落,发出响彻山谷的巨响。我不由得全身一颤,木然地看著两只雉鸡飞也似的从自己脚底下跑了。几乎与此同时,我真真切切的感觉到,你就在我身边,像以往一样,你只是睁大眼睛,静静地注视著我。

午后、私ははじめて谷の小屋を下りて、雪の中に埋まった村を一周りした。夏から秋にかけてしかこの村を知っていない私には、いま一様に雪をかぶっている森だの、道だの、钉づけになった小屋だのが、どれもこれも见覚えがありそうでいて、どうしてもその以前の姿を思い出されなかった。昔、私が好んで歩きまわった水车の道に沿って、いつか私の知らない间に、小さなカトリック教会さえ出来ていた。しかもその美しい素木造りの教会は、その雪をかぶった尖った屋根の下から、すでにもう黒ずみかけた壁板すらも见せていた。それが一层そのあたり一帯を私に何か见知らないように思わせ出した。それから私はよくお前と连れ立って歩いたことのある森の中へも、まだかなり深い雪を分けながらはいって行ってみた。やがて私は、どうやら见覚えのあるような気のする一本の枞の木を认め出した。が、渐っとそれに近づいてみたら、その枞の中からギャッと锐い鸟の啼き声がした。私がその前に立ち止まると、一羽の、ついぞ见かけたこともないような、青味を帯びた鸟がちょっと愕いたように羽搏いて飞び立ったが、すぐ他の枝に移ったままかえって私に挑みでもするように、再びギャッ、ギャッと啼き立てた。私はその枞の木からさえ、心ならずも立ち去った。

下午,我第一次从山谷的小屋走下,在大雪覆盖的村子里走了一遭。我只是在夏秋之间到过这里来,现在,那似曾相识的森林、道路、封门的小屋,都被大雪覆盖著,我无论如何也想不起它们以前的模样。我以前很喜欢在水车旁散散步,而今那里不知何时起,新建了一座天主教堂。那是一座由很漂亮的实木建造而成的教堂,那尖屋顶上已经被雪覆盖了,屋顶下显露出黑色的墙体——这更使我对这一带感到陌生。此后,我还趟著尚且很深的积雪,走进了森林看一看,那是我和你以前经常去的地方。不久,我发现了一棵似曾相识的枞树。走近看时,枞树丛中响起了尖锐的鸟鸣,我站在树前,一只从未见过的黑色鸟儿仿佛被惊动了似的,振翅飞走,转到别的枝条上,转而再次向我鸣叫,仿佛要向我挑战一般。我无奈地离那棵枞树而去。

十二月七日

集会堂の傍らの、冬枯れた林の中で、私は突然二声ばかり郭公の啼きつづけたのを闻いたような気がした。その啼き声はひどく远くでしたようにも、又ひどく近くでしたようにも思われてそれが私をそこいらの枯薮の中だの、枯木の上だの、空ざまを见まわせさせたが、それっきりその啼き声は闻えなかった。

在教堂旁边冻枯了的树林里,我似乎听到了杜鹃连续两声的啼鸣。那啼鸣似乎极远,又感觉极近。我看遍这一带的枯草丛、枯树、天空,但那声音,我再也没听到了。

それは矢张りどうも自分の闻き违えだったように私にも思われて来た。が、それよりも先きに、そのあたりの枯薮だの、枯木だの、空だのは、すっかり夏の懐しい姿に立ち返って、私の里に鲜かに苏えり出した。……

我想是我听错了吧。而那一带的草丛、枯树、天空,却在我心头鲜活地复活了,仿佛回到了那个令人怀恋的夏日。……

けれども、そんな三年前の夏の、この村で私の持っていたすべての物が既に失われて、いまの自分に何一つ残ってはいない事を、私が本当に知ったのもそれと一しょだった。

但是,三年前的那个夏天,在这个村子里,我所拥有的一切都已失去,没有一个留给如今的我。对此,我心里还是明了的。

十二月十日

この数日、どういうものか、お前がちっとも生き生きと私に苏って来ない。そうしてときどきこうして孤独でいるのが私には殆どたまらないように思われる。朝なんぞ、暖炉に一度组み立てた薪がなかなか燃えつかず、しまいに私は焦れったくなって、それを荒あらしく引っ掻きまわそうとする。そんなときだけ、ふいと自分の傍らに気づかわしそうにしているお前を感じる。――私はそれから渐っと気を取りなおして、その薪をあらたに组み変える。

这几天,不知为何,你的音容笑貌再也没有在我心头完美重现。於是,这种难以忍受的孤独时时困扰著我。早晨,暖炉里一时搭起的柴木总是点不著,最后我焦躁起来,想要把它们拽散打乱。只有在这种时候,才忽然感到你关心地站在我身边。——然后,我终於把心境平静下来,重新把柴木摆放好。

又午后など、すこし村でも歩いて来ようと思って、谷を下りてゆくと、この顷は雪解けがしている故、道がとても悪く、すぐ靴が泥で重くなり、歩きにくくてしようがないので、大抵途中から引っ返して来てしまう。そうしてまだ雪の冻みついている、谷までさしかかると、思わずほっとしながら、しかしこん度はこれから自分の小屋までずっと息の切れるような上り道になる。そこで私はともすれば灭入りそうな自分の心を引き立てようとして、「たといわれ死のかげの谷を歩むとも祸害をおそれじ、なんじ我とともに在せばなり……」とそんなうろ覚えに覚えている诗篇の文句なんぞまで思い出して自分自身に云ってきかせるが、そんな文句も私にはただ空虚に感ぜられるばかりだった。

下午,我想到村子里走走,於是便走下了山谷。结果,由於这阵子冰雪融化,道路变得举步维艰,鞋子因为沾了泥土而重量骤增,路越来越难走。所以,我往往是无可奈何地中途折返。走到冰雪未溶的山谷时,不由得舒了一口气。可是,小屋前那条令人几乎喘不过气来的上坡路,让我望而却步。因此,我竭力想鼓舞自己这动辄灰暗的心情,甚至想出了记忆中模模糊糊的诗句,念给自己听——“纵越过死谷,亦不惧其祸,因你我同在……”。但是,这些诗句对我而言,也只能给我空虚。

十二月十二日

夕方、水车の道に沿った例の小さな教会の前を私が通りかかると、そこの小使らしい男が雪泥の上に丹念に石炭壳を撒いていた。私はその男の傍に行って、冬でもずっとこの教会は开いているのですか、と何んという事もなしに讯いてみた。

傍晚,我走过那个水车路边的小教堂,看到一个佣工模样的男人认真地往雪地上撒煤灰。我走到那人身边,随口问道:“这教堂冬天也一直开放吗?”

「今年はもう二三日うちに缔めますそうで――」とその小使はちょっと石炭壳を撒く手を休めながら答えた。
“听说,今年再过两三天就要关门了——”那佣工略微停下了撒煤灰的手,回答道。

「去年はずっと冬じゅう开いておりましたが、今年は神父様が松本の方へお出になりますので……」
“去年整个冬天都是开放的。但今年神父先生要去松本那边,所以……”

「そんな冬でもこの村に信者はあるんですか?」と私は无躾けに讯いた。
“这麼冷的天,这村子里还会有信徒吗?”我冒冒失失地问。

「殆どいらっしゃいませんが。……大抵、神父様お一人で毎日のお弥撒をなさいます」
“几乎没人入会……基本上每天就是神父先生一个人在做弥撒。”

私达がそんな立ち话をし出しているところへ、丁度外出先からその独逸人だとかいう神父が帰って来た。こん度は私がその日本语をまだ充分理解しない、しかし人なつこそうな神父に掴まって、何かと讯かれる番になった。そうしてしまいには何か闻き违えでもしたらしく、明日の日曜の弥撒には是非来い、と私はしきりに勧められた。

就在我们站著聊天时,那个似乎是德国人的神父恰好回来了。这回,神父向我走来,问长问短的,尽管他日语讲得不好,但待人亲切。最后,不知道是不是他误解了我的话,他一个劲地劝我:明天星期日的弥撒务必过来。

十二月十四日

 きのう夕方、神父と约束をしたので、私は教会へ访ねて行った。あす教会を闭して、すぐ松本へ立つとか云う事で、神父は私と话をしながらも、ときどき荷拵えをしている小使のところへ何か云いつけに立って行ったりした。そうしてこの村で一人の信者を得ようとしているのに、いま此処を立ち去るのはいかにも残念だと缲り返し言っていた。私はすぐにきのう教会で见かけた、やはり独逸人らしい中年の妇人を思い浮べた。そうしてその妇人のことを神父に讯こうとしかけながら、その时ひょっくりこれはまた神父が何か思い违えて、私自身のことを言っているのではあるまいかと云う気もされ出した。……

昨天傍晚,我跟神父做了约定,於是我拜访了教堂。因为明天教堂将要关门,神父马上就要去松本了,所以神父在跟我讲话的时候,也时不时嘱咐著收拾行李的佣工。於是,在絮絮叨叨中,神父惋惜著,本来想在这村里收个信徒,但现在就要离开这里,极之遗憾。我马上就想起了昨天在教堂看到的、那个似乎也是德国人的妇人。我便想找机会问问神父有关她的事情。但当时神父在询问著有关我的事情,我便觉得这个问题不问也罢。……

そう妙にちぐはぐになった私达の会话は、それからはますます途绝えがちだった。そうして私达はいつか黙り合ったまま、热过ぎるくらいの暖炉の傍で、窓硝子ごしに、小さな云がちぎれちぎれになって飞ぶように过ぎる、风の强そうなしかし冬らしく明るい空を眺めていた。

此后,我们这般不协调的对话,越来越多地中断了。结果,我们都不约而同地沉默下来。在烧得有些过热的暖炉旁,透过玻璃窗,眺望著风很大但很晴朗的冬季天空中,一片片碎云飞逝而过。

「こんな美しい空は、こういう风のある寒い日でなければ见られませんですね」神父がいかにも何気なさそうに口をきいた。
“如此之美的青空,恐非在这个寒风冬日里不可见。”神父完全无意地开口说道。

「本当に、こういう风のある、寒い日でなければ……」と私は鹦鹉がえしに返事をしながら、神父のいま何気なく言ったその言叶だけは妙に私の心にも触れてくるのを感じていた……

“确实,不是这种有风的冷日子……”我鹦鹉学舌般应和著,觉得只有神父刚才地无心之言,著实触动了我的心。

一时间ばかりそうやって神父のところにいてから、私が小屋に帰ってみると、小さな小包が届いていた。ずっと前から注文してあったリルケの「镇魂歌」が二三册の本と一しょに、いろんな附笺がつけられて、方々へ廻送されながら、やっとの事でいま私の许に届いたのだった。

这样过了一个多小时,我从神父那里回到小屋,看到有小包裹送来了。原来是在很早以前就订购的里尔克(Rainer Maria Rilke,1875~1926,德国诗人)诗集《安魂曲》,还有其他的两三本书,一起被贴上了许许多多的标签,越陌度阡、辗转各地才终於送到我这里来。

十二月十七日

又雪になった。けさから殆ど小止みもなしに降りつづいている。そうして私の见ている间に目の前の谷は再び真っ白になった。こうやっていよいよ冬も深くなるのだ。きょうも一日中、私は暖炉の傍らで暮らしながら、ときどき思い出したように窓ぎわに行って雪の谷をうつけたように见やっては、又すぐに暖炉に戻って来て、リルケの「レクイエム」に向っていた。未だにお前を静かに死なせておこうとはせずに、お前を求めてやまなかった、自分の女々しい心に何か后悔に似たものをはげしく感じながら……

又下雪了。从今天早晨就几乎不停地下著。於是,转眼间,眼前的山谷便回归到白茫茫的一片。就这样,隆冬终於到来。今天,我又是一整天在暖炉旁度过,时而想起来就到窗前俯瞰雪景,然后马上回到暖炉旁,读里尔克的《安魂曲》。同时,对於我自己没让你静静死去、不断去求你的软弱心理,心里仍然强烈地感到一种悔意。……



私は死者达を持っている、そして彼等を立ち去るが尽にさせてあるが、

我任由死者们拥有与离去

彼等が噂とは似つかず、非常に确信的で、

他们迥异於谣言而又可信至极

死んでいる事にもすぐ惯れ、颇る快活であるらしいのに

尽管见惯死亡而极为快活

惊いている位だ。只お前――お前だけは帰って

但惊骇,只为你——只有你

来た。お前は私を掠め、まわりをさ迷い、何物かに归来,

掠走我,将周遭惑迷

冲き当る、そしてそれがお前のために音を立てて、お前を裏切るのだ。

一声撞击,它为你而鸣,亦背叛你

おお、私が手间をかけて学んで得た物を

不要夺我所学,

私から取除けてくれるな。

因我费尽心机

正しいのは私で、お前が间违っているのだ、

是我对而你错,

もしかお前が谁かの事物に郷愁を催しているのだったら。

倘若你的乡愁因人催起

我々はその事物を 目の前にしていても、

即便我们正面对斯人斯事

それは此処に在るのではない。

斯人斯事亦并非在此

我々がそれを知覚すると同时に

在我们知觉斯人斯事之时

その事物を我々の存在から反映させているきりなのだ。

不过是因我们的存在而反映著斯人斯事



十二月二十四日

夜、村の娘の家に招ばれて行って、寂しいクリスマスを送った。こんな冬は人けの绝えた山间の村だけれど、夏なんぞ外人达が沢山はいり込んでくるような土地柄ゆえ、普通の村人の家でもそんな真似事をして楽しむものと见える。

夜晚,我被邀去村里的姑娘家,度过了寂寥的圣诞。虽然这种山村一到冬季便绝人迹,但由於夏天时洋人们大量涌入,把地方风情都带了进村,使得村里一般人家也模仿起洋人来,以此为乐事。

九时顷、私はその村から雪明りのした谷阴をひとりで帰って来た。そうして最后の枯木林に差しかかりながら、私はふとその道傍に雪をかぶって一块りに块っている枯薮の上に、何処からともなく、小さな光が幽かにぽつんと落ちているのに気がついた。こんなところにこんな光が、どうして射しているのだろうと讶りながら、そのどっか别荘の散らばった狭い谷じゅうを见まわしてみると、明りのついているのは、たった一轩、确かに私の小屋らしいのが、ずっとその谷の上方に认められるきりだった。……「おれはまあ、あんな谷の上に一人っきりで住んでいるのだなあ」と私は思いながら、その谷をゆっくりと登り出した。「そうしてこれまでは、おれの小屋の明りがこんな下の方の林の中にまで射し込んでいようなどとはちっとも気がつかずに。御覧……」と私は自分自身に向って言うように、「ほら、あっちにもこっちにも、殆どこの谷じゅうを掩うように、雪の上に点々と小さな光の散らばっているのは、どれもみんなおれの小屋の明りなのだからな。……」

九点钟左右,我从村里独自走过山谷阴坡归来,坡上还映著雪光。在穿过最后的枯树林的时候,我忽然发现道旁一簇簇被雪覆盖的枯草丛上,不知从何而来的微光正幽幽而下。我一边惊讶於这种光从何而来,一边环顾著这个狭小的、别墅遍布的山谷,发现亮著灯的只有一户人家。似乎这亮著光的房子,确是我的小屋,因为可以看出光来自於山谷的最上方……“原来就我一个住在那山的最上边啊!”我想著,慢慢地爬上了山谷。“就这样,到今天为止,我还不知道这小屋里的灯光会一直射到这下边的林子中去呢。你看……”我近乎喃喃自语地说道,“看这里!还有那里!那雪上的点点光,漫山遍野的,都是我的屋子里的灯光啊!”……

渐っとその小屋まで登りつめると、私はそのままヴェランダに立って、一体この小屋の明りは谷のどの位を明るませているのか、もう一度见てみようとした。が、そうやって见ると、その明りは小屋のまわりにほんの仅かな光を投げているに过ぎなかった。そうしてその仅かな光も小屋を离れるにつれてだんだん幽かになりながら、谷间の雪明りとひとつになっていた。

终於来到小屋前。我随即直接站在阳台上,想再次确认这小屋的灯光到底能让山谷能亮到什麼程度。从屋内看去,那灯光不过只在小屋周边投下微光而已。而这微光随著离小屋渐远而渐幽暗,渐渐地与山谷中积雪映著的光融为一体了。

「なあんだ、あれほどたんとに见えていた光が、此処で见ると、たったこれっきりなのか」と私はなんだか気の抜けたように一人ごちながら、それでもまだぼんやりとその明りの影を见つめているうちに、ふとこんな考えが浮んで来た。

“什麼啊!看起来这麼强的光,怎麼从这里看就这麼点儿啊?!”我有点泄气地自言自语道。而尽管如此,在我漠然地注视著灯影的时候,忽然产生了这般想法:

「――だが、この明りの影の工合なんか、まるでおれの人生にそっくりじゃあないか。おれは、おれの人生のまわりの明るさなんぞ、たったこれっ许りだと思っているが、本当はこのおれの小屋の明りと同様に、おれの思っているよりかもっともっと沢山あるのだ。そうしてそいつ达がおれの意识なんぞ意识しないで、こうやって何気なくおれを生かして置いてくれているのかも知れないのだ……」

“但是,这灯影,不正像我的人生一样吗?我以为我的人生周边的光就这麼几许,但事实上就像这小屋的灯光一样,比我认为的要多得多。也许就是这样,他们才不去理解我的想法,就这麼毫不在乎地让我活著……”

そんな思いがけない考えが、私をいつまでもその雪明りのしている寒いヴェランダの上に立たせていた。
这个出人意料的想法,让我久久地伫立在那个雪光映照著的寒冷的阳台上。

十二月三十日

本当に静かな晩だ。私は今夜もこんなかんがえがひとりでに心に浮んで来るがままにさせていた。

夜晚非常寂静。今夜,我又独自一人,任思绪涌上心头。

「おれは人并以上に幸福でもなければ、又不幸でもないようだ。そんな幸福だとか何んだとか云うような事は、尝つてはあれ程おれ达をやきもきさせていたっけが、もう今じゃあ忘れていようと思えばすっかり忘れていられる位だ。反ってそんなこの顷のおれの方が余っ程幸福の状态に近いのかも知れない。まあ、どっちかと云えば、この顷のおれの心は、それに似てそれよりは少し悲しそうなだけ、――そうかと云ってまんざら愉しげでないこともない。……こんな风におれがいかにも何気なさそうに生きていられるのも、それはおれがこうやって、なるたけ世间なんぞとは交じわらずに、たった一人で暮らしている所为かも知れないけれど、そんなことがこの意気地なしのおれに出来ていられるのは、本当にみんなお前のお荫だ。それだのに、节子、おれはこれまで一度だっても、自分がこうして孤独で生きているのを、お前のためだなんぞとは思った事がない。それはどのみち自分一人のために好き胜手な事をしているのだとしか自分には思えない。或はひょっとしたら、それも矢っ张お前のためにはしているのだが、それがそのままでもって自分一人のためにしているように自分に思われる程、おれはおれには勿体ないほどのお前の爱に惯れ切ってしまっているのだろうか? それ程、お前はおれには何んにも求めずに、おれを爱していてくれたのだろうか?……」

“我没有过人的幸福,也非不幸。那些所谓的幸福与不幸,曾令我们那样的焦躁不安。或许,如今的我反过来却非常近於幸福状态。总之,不管怎麼说,如今我的心境,是近乎幸福而只是较之幸福略有伤悲而已。——虽说如此,但也不是完完全全的愉悦。……我之所以能够这样万事不关心的活著,也许其中也有我只求独自生活、不与世间往来的缘由,但是,对於我这种心智不强的人而言,能做出这些事情,实在都是你加护的结果。尽管如此,节子,我迄今为止一次也没有想到,自己这样孤独地生活,就是为了你。我只认为,走那条路,是我为了自己一个人而走的,是那样的随心所欲。或者,也许那可能是为你而做的,但是,我是否已经彻底适应了,你对我而言受之可惜的爱,以至於我把它原封不动地拿了过来,把它当做为我自己一个人而做的呢?难道你就是这样,毫无所求地给予了我爱?”

そんな事を考え続けているうちに、私はふと何か思い立ったように立ち上りながら、小屋のそとへ出て行った。そうしていつものようにヴェランダに立つと、丁度この谷と背中合せになっているかと思われるようなあたりでもって、风がしきりにざわめいているのが、非常に远くからのように闻えて来る。それから私はそのままヴェランダに、あたかもそんな远くでしている风の音をわざわざ闻きに出でもしたかのように、それに耳を倾けながら立ち続けていた。私の前方に横わっているこの谷のすべてのものは、最初のうちはただ雪明りにうっすらと明るんだまま一块りになってしか见えずにいたが、そうやってしばらく私が见るともなく见ているうちに、それがだんだん目に惯れて来たのか、それとも私が知らず识らずに自分の记忆でもってそれを补い出していたのか、いつの间にか一つ一つの线や形を徐ろに浮き上がらせていた。それほど私にはその何もかもが亲しくなっている、この人々の谓うところの幸福の谷――そう、なるほどこうやって住み惯れてしまえば、私だってそう人々と一しょになって呼んでも好いような気のする位だが、……此処だけは、谷の向う侧はあんなにも风がざわめいているというのに、本当に静かだこと。まあ、ときおり私の小屋のすぐ裏の方で何かが小さな音を轧しらせているようだけれど、あれは恐らくそんな远くからやっと届いた风のために枯れ切った木の枝と枝とが触れ合っているのだろう。又、どうかするとそんな风の余りらしいものが、私の足もとでも二つ三つの落叶を他の落叶の上にさらさらと弱い音を立てながら移している……。

不断地想著这些,我忽然若有所思似的站起身来,走到小屋外。我像往常一样站在阳台上,眺望这山谷背面一带。风在不断地咆哮著,仿佛来自极远极远的地方。此后,我便继续站在阳台上,侧耳倾听,仿佛这远方的风声专为我而疾吹。横在我前面的这个山谷中的一切,最初看去,不过是被积雪反照得微微发亮的一堆垒块,而或许因为是我不经意间看了良久,它渐渐的也变得顺眼,抑或是由於我在不知不觉间以自己的记忆对它作出了修补,它的线条与轮廓,一个一个地在不经意间缓缓浮现。它的一切都和我亲近了起来,这个人们所谓的“幸福谷”——是的,我甚至感到,如果确实在这住得惯了,我也会跟大夥一起把这里称之为“幸福谷”的……但是,山谷的那边,狂风是如此的凄厉,而只有这里却寂静异常。噢,就在我小屋的背后,那些神秘的轻微响声,恐怕就是那些枯树的枝条儿,因为这艰难涉远而来的风而相互地碰撞著吧。又或许,那是狂风之余威,正在我的脚下发出微弱的余响,将几枚落叶瑟瑟地扫到其他落叶之上……





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